
乳がんは早期発見・早期治療が大切と言われますが、進行すると「ステージ4」と診断されることがあります。この段階では完治を目指すことが難しい場合もありますが、生活の質を保ちながら治療を続けていくことは可能です。
本記事では、乳がんのステージごとの違いやステージ4の主な症状、転移部位別の症状、具体的な治療法までをわかりやすく解説していきます。乳がんについての理解を深めたい方は、ぜひ本記事を参考になさってください。
目次
そもそも乳がんのステージとは

乳がんの検査や治療を受けるとき、「ステージ」という言葉を耳にする方も多いでしょう。
がんのステージとは、進行の度合い(病期)を段階的に表した指標です。
なお、一般的にがんのステージは0~4の5段階があり、「腫瘍の大きさ(T)」「リンパ節への転移(N)」「他臓器への転移(M)」の3つを組み合わせたTNM分類によって判定されます。
乳がんも同様にステージ0から4までの5段階がありますが、より詳細に分けると以下の7段階に分類されます。
- ステージ0
- ステージ1
- ステージ2A
- ステージ2B
- ステージ3A
- ステージ3B
- ステージ3C
- ステージ4
7段階あるステージの中で、ステージ4は乳がんが最も進行した状態です。
しかし、ステージ4は必ずしも末期というわけではなく、がんの進行の抑制や症状緩和を目的とした治療をおこなうことができます。
がん情報サービス:「乳がん 治療」
乳がんステージ4の状態
乳がんのTNM分類では、ステージごとのがんの進行度は以下のように示されています。
| ステージ | 腫瘍の大きさ(状態) | リンパ節への転移 | 他臓器への転移 |
|---|---|---|---|
| 0 | なし | なし | なし |
| 1 | 2cm以下 | なし | |
| 2A | 2cm以下 | 腋窩リンパ節への転移があり、リンパ節は動く | |
| 2~5cm | なし | ||
| 2B | 2~5cm | 腋窩リンパ節への転移があり、リンパ節は動く | |
| 5cmを超える | なし | ||
| 3A | 5cm以下 | ・腋窩リンパ節への転移があり、リンパ節が動かないかリンパ節同士が癒着している ・または内胸リンパ節への転移がある | |
| 5cmを超える | 腋窩リンパ節または内胸リンパ節への転移がある | ||
| 3B | ・大きさを問わない ・しこりが胸壁に固定されているか、皮膚にシコリが現れたり皮膚が崩れたりしている | リンパ節への転移を問わない | |
| 3C | 大きさを問わない | ・腋窩リンパ節と内胸リンパ節の両方に転移がある ・または鎖骨の上下のリンパ節にも転移がある | |
| 4 | 大きさを問わない | リンパ節への転移を問わない | 他臓器への転移がある |
乳がんのステージ4は、がんが乳房やリンパ節の近くに留まらず、遠くの臓器に転移している状態です。がんが転移する臓器には骨・脳・肺・肝臓などがあり、ステージ4では転移の範囲や病状にあわせて治療を選択することになります。
乳がんステージ4の生存率
がん患者が罹患後に一定年数を生きられる割合は、「生存率」という指標で表されます。
乳がん患者の5年生存率(罹患してから5年生存している患者さんの割合)をステージ別に表すと以下の通りです。
| ステージ | 実測生存率 | ネット・サバイバル |
|---|---|---|
| 1 | 95.2% | 98.9% |
| 2 | 90.9% | 91.6% |
| 3 | 77.3% | 80.6% |
| 4 | 38.6% | 39.8% |
※実測生存率:死因を問わず、全ての死亡を含めて計算した生存率
※ネット・サバイバル:「がん以外の死因がなかった」と仮定した場合の生存率
乳がんステージ4の生存率は39%前後となります。
このように乳がんステージ4は根治が難しいとされているものの、治療をおこなうことで進行の抑制や症状の緩和が期待できます。
院内がん登録生存率集計結果閲覧システム:「乳がん5年生存率」
乳がんステージ4の症状

乳がんのステージ全体で見られる症状は「乳房にしこりがある」「乳房の形が変わる」などです。
なお、乳がんのステージが進行すると異なる症状が現れるようになり、特にステージ4では胸部や転移部位にがんの進行に伴う症状が現れることが特徴です。
ここでは、乳がんステージ4の代表的な6つの症状を解説します。
胸周りに強い痛みを感じる
乳がんの初期には痛みを感じるケースはほとんどないものの、ステージが進行するにつれて増殖したがん細胞が周囲の組織や神経を圧迫し、痛みを生じることがあります。
また、乳がんステージ4は他臓器への転移が始まっているため、がんの転移部位にも痛みが生じます。転移部位が骨であれば骨、肺であれば肺に痛みを感じやすくなるでしょう。
なお骨転移の場合は骨がもろくなるため、骨折による痛みを感じるケースもあります。
疲労や倦怠感がある
乳がんステージ4になると「眠っても疲れが取れない」「何事にも前向きになれない」「気分の落ち込みを感じる」といった強い疲労感や倦怠感を感じやすくなります。
原因のひとつが「がん悪液質」です。これは進行がんに伴う代謝異常で、代表的な症状として体重減少や筋肉量減少があります。
また「がん治療の副作用」も乳がんステージ4で見られる疲労や倦怠感の原因のひとつです。薬物療法・手術・放射線治療などによる身体への負担が、疲労や倦怠感として現れることがあるのです。
【骨転移の場合】骨折や高カルシウム血症
乳がんが骨に転移した場合は、骨折のリスクや高カルシウム血症などの症状が現れることがあります。
乳がんの骨転移によって骨折のリスクが高まるのは、がん細胞が骨の細胞を破壊して骨がもろくなるためです。その結果、わずかな力でも骨折しやすくなり、体重の負荷や筋肉の収縮でも骨折が起こる可能性があるのです。
また高カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が極端に高い状態を指します。がん細胞が骨を破壊すると、骨に含まれるカルシウムが血中に溶け出すため高カルシウム血症を引き起こします。軽度であれば消化器不調・多尿・のどの渇きなどが見られますが、重症化すると意識混濁・錯乱・昏睡などの神経症状が現れることもあります。
さらに、がんが頭蓋骨や脊髄といった神経の集中する部位に転移した場合は、がん細胞が神経を圧迫して手足のしびれや麻痺を引き起こすおそれもあります。これらの症状は運動機能の低下を招き、生活の質(QOL)の低下にも直結するため注意が必要です。
【脳転移の場合】頭痛や嘔吐、身体のまひが起こる
がんの脳転移とは、がん細胞が血液に乗って脳に運ばれ、脳内で新たに腫瘍を形成するようになった状態を指します。乳がんステージ4で脳に転移すると、増殖したがん細胞が脳を圧迫して頭痛や嘔吐、身体のまひといった症状を起こします。
たとえば、大脳の前頭葉に転移した場合は認知機能や社会的行動に関する機能が障害され、側頭葉であれば言語機能・聴覚機能・記憶機能などが障害されます。小脳の場合は運動機能や発声にかかわる構音機能が障害され、振戦(ふるえ)や嘔吐などを引き起こすケースもあるでしょう。
その他にも、がん細胞が脳の神経細胞を圧迫することで意識障害・記憶障害・けいれん・身体の硬直といったてんかん発作の症状を起こす場合もあります。
【肺転移の場合】咳や息切れの増加、血痰が出る
肺は酸素を多く取り込むために微細な網目状の血管が張り巡らされていて、血流を通じてがん細胞が転移しやすい臓器です。肺転移の初期段階では無症状のケースが多いものの、放置されて腫瘍が大きくなると咳や息切れの増加などの症状が現れます。
特に注意したい症状が、肺転移したがんが気管支に広がることで起こる「血痰」や、気管支の閉塞によって起こる「肺炎」「呼吸困難」です。これらの症状が現れると肺転移が重度に進行していると考えられます。
また、肺転移が進行すると肺や胸膜のリンパ管が腫瘍で閉塞されて、肺の外側にある胸腔に水が溜まる「胸水」という症状が現れるケースもあります。胸水は肺や心臓を圧迫し、呼吸困難や心不全を起こすおそれもあります。
【肝転移の場合】食欲不振や腹部の張り、黄疸や腹水が現れる
乳がんのステージ4では、がん細胞が肝臓に転移するケースもあります。肝転移の場合に現れる症状には食欲不振や慢性的な腹部の張りがあり、進行すると黄疸や腹水も現れます。
初期段階の典型的な症状としては、肝臓が腫れて大きくなり、表面が硬化することです。肝臓の腫れに伴って圧痛も現れるようになり、結節と呼ばれる塊が形成される場合もあります。
さらに進行すると黄疸が現れます。これは、ビリルビンという黄色の色素が肝臓で処理されなくなり、血液中に流れて皮膚や白目部分が黄色くなる症状です。なお黄疸の出現は、栄養素の代謝・分解や有害物質の解毒といった肝臓の働きが正常におこなわれなくなっているサインでもあります。
乳がんステージ4の3つの治療法

乳がんステージ4では他臓器への転移が起きているものの、治療法の選択肢はいくつかあります。治療法によっては副作用もあるため、医師と相談した上で慎重な選択をしましょう。
がん情報サービス:「乳がん 治療」
薬物療法
乳がんステージ4では、基本的な治療法として「薬物療法」が選択されます。薬物療法とは、がん細胞を攻撃したり増殖を抑えたりする薬剤を用いる治療法です。
乳がんステージ4で使用される主な薬剤は以下の4種類です。なお、どの薬剤を使用するかは、がん細胞が何によって増殖するかで分類した「サブタイプ分類」をはじめ、乳がんのステージや再発リスク、患者様の希望も含めて選択することになります。
ホルモン療法薬
ホルモン療法薬は、女性ホルモンが原因となって増殖するタイプの乳がんに使われる薬です。女性ホルモンであるエストロゲンや黄体ホルモンの分泌や作用を阻害して、がん細胞が女性ホルモンを利用して増殖できないようにします。
主なホルモン療法薬には抗エストロゲン薬・黄体ホルモン製剤・LH-RHアゴニスト製剤・アロマターゼ阻害薬があります。
抗がん剤
抗がん剤は、がん細胞の死滅や増殖抑制を目的とした薬です。
抗がん剤はがん細胞だけではなく正常な細胞も攻撃してしまうため、副作用が強いことが特徴です。しかし、正常な細胞はがん細胞よりも抗がん剤への抵抗力が高いとされており、抗がん剤は正常な細胞が耐えられるレベルの攻撃を行ってがん細胞を死滅させます。
代表的な抗がん剤にはアルキル化剤・代謝拮抗剤・抗がん性抗生物質・アルカロイド系抗がん剤があります。
分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞が持つ特定のタンパク質などを標的として作用し、がん細胞の増殖を防ぐ薬です。抗がん剤と比べて正常な細胞を攻撃することが少なく、副作用を抑えられるメリットがあります。
乳がんステージ4の治療で使われる分子標的薬は、抗HER2薬・CDK4/6阻害薬・PARP阻害薬などがあります。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、患者様自身の免疫を活性化して、がん細胞を攻撃できるようにする薬です。本来、免疫チェックポイントはT細胞の働きを抑える仕組みとして存在しますが、がん細胞はこの仕組みを利用して免疫から逃れています。免疫チェックポイント阻害薬はその抑制を解除し、T細胞を再び活性化させてがん細胞を攻撃できるようにします。
免疫チェックポイント阻害薬にはPD-1阻害薬・PD-L1阻害薬・CTLA-4阻害薬があります。
手術
乳がんの手術はステージ3までは有力な候補であるものの、ステージ4で手術を選択することは多くありません。これは、乳がんステージ4が乳房以外の部位にがんが転移した状態であり、手術で腫瘍を摘出しても再発する可能性が高いためです。
しかし、乳がんステージ4でも以下のような場合には手術を選択することがあります。
乳房の病変に悪化が見られる場合
皮膚にただれや出血が見られるなど、乳房の病変に悪化が見られる場合は、手術をおこなうことで原発巣(がんが最初に発生した部位)を切除するケースがあります。
手術により症状緩和などの効果が見込める場合
薬物療法などの治療によって病気の経過がよく、原発巣の切除によって症状緩和などの効果が見込める場合は、手術をおこなうケースがあります。
乳がんの手術には症状の緩和・改善が見込めるメリットと、外見の変化や合併症リスクなどのデメリットがあります。担当の医師と話し合い、自分に適しているかどうかを考えることが大切です。
放射線治療
放射線治療は、高エネルギーのX線を病変部位に照射し、がん細胞の死滅や縮小を目的とした治療法です。
なお乳がんステージ4では、放射線治療は薬物療法や手術と組み合わせることが多いですが、これは他部位に転移しているがん細胞は放射線治療をおこなっても死滅が難しいためです。
このような放射線治療が選択されるケースは、骨転移による疼痛がある場合や脳転移で出現した腫瘍が少数である場合などです。放射線治療によって痛みの緩和や脳機能の維持をすることで、患者さんのQOL向上が期待できるでしょう。
まとめ

乳がんステージ4は乳がんが最も進行した状態です。しかしながら、紹介した薬物療法・手術・放射線療法など、患者さんが選択できる治療法はあります。
また、乳がんは一般的に進行が遅く、早期のステージであるほど治療がしやすいがんです。気になる症状がある方は、まずは診察と乳がんの検査を受けるとよいでしょう。
乳がんについて「ステージ4で治療を迷っておられる方」「ステージ4で治療が困難と言われてしまった方」「合併症や治療の副作用で辛い思いをされている方」は、会って話せる医療相談をご利用ください。乳がんの名医に症状や治療法について相談することができます。