
肺がんは、日本において罹患者数・死亡者数ともにすべてのがんのなかで大きな割合を占めています。おもな治療方法として、標準治療と呼ばれる手術療法・薬物療法・放射線治療があり、肺がんの種類や進行度、患者さんの全身状態などを総合的に判断して選択されます。
しかし、手術療法や薬物療法は、身体への負担や有害事象(副作用)などの理由から適応できないことがあります。そのようなケースで検討されるのが放射線治療です。
本記事では、肺がんにおける放射線治療の目的や特徴、期待できる効果や有害事象(副作用)をはじめとした注意点などについて詳しく解説していきます。
目次
肺がんとは

肺がんは、何らかの原因により肺胞や気管支の細胞ががん化することで発生します。
がん細胞は周囲の組織を壊しながら増殖を繰り返し、進行すると血管やリンパ管を介してほかの臓器や組織に転移していきます。肺がんの転移しやすい部位には、同側又は反対側の肺・リンパ節・肝臓・脳・骨などが挙げられます。
肺がんの分類
肺がんは大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」に分類することができます。
非小細胞肺がんは、肺がんの発症数の約80~90%を占めています。さらに腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんに分類され、比較的進行が緩やかなことが特徴です。
一方、残る10~20%にみられる小細胞肺がんは、増殖速度が速く転移しやすい傾向がありますが、薬物療法や放射線治療の効果が得られやすいとされています。
この分類は、肺がんの治療方法を検討するうえで重要な指標となります。
肺がんの病期(ステージ)
肺がんの病期(ステージ)は、腫瘍の大きさや浸潤、リンパ節への転移、遠隔転移の有無をもとに、0期からIV期までの大きく5つに分類され、さらにⅠA1・ⅠA2・ⅠA3・ⅠB・ⅡA・ⅡB・ⅢA・ⅢB・ⅢC・ⅣA・ⅣBと細かく分けられています。病期はがんの大きさやリンパ節転移、遠隔転移の有無や程度によって決定され、治療方針を決めるうえで重要な要素となります。
0期からⅡ期までは手術での根治が期待できますが、転移のみられるⅢ期・Ⅳ期では、複数の治療を組み合わせておこなうことが一般的です。
肺がん治療のおもな選択肢

肺がんの治療はひとつの方法だけでおこなわれるとは限りません。病期(ステージ)や患者さんの全身状態、合併症の有無などを総合的に判断して最適な治療法が選択されます。
ここでは、肺がんの治療で用いられるおもな治療方法について紹介します。
手術療法
肺がんの手術としておこなわれているのは、がんの発生した部位の肺葉を切除する「肺葉切除術」です。手術時にはリンパ郭清も同時に実施し、リンパ節への転移を調べることが一般的です。従来の開胸手術に加え、近年では体への負担を抑えることのできる胸腔鏡下手術も増えています。
おもに、非小細胞肺がんのⅠ~Ⅱ期と一部のⅢA期、小細胞肺がんのⅠ期(限局型)と一部のⅡA期が適応となります。
薬物療法
肺がん全般の治療に用いられているのが、抗がん剤による薬物療法です。使用される薬剤には抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬があり、がんの遺伝子変異や進行の状況などに応じて選択されます。
薬物療法は、がんを小さくすることに加えて、転移の抑制や再発リスクの軽減、痛みなどの症状緩和も目的としています。また、手術の治療効果を高めるために、術前術後に薬物療法をおこなうこともあります。
放射線治療
放射線治療は、放射線を腫瘍に照射してがん細胞のDNAを損傷させることにより、がん細胞を死滅に至らせる治療方法です。手術に比べて体への負担も少ないため、手術や薬物療法が適応とならない患者さんや高齢者にも広くおこなわれています。
根治を目指して放射線治療が用いられることもありますが、転移の予防や症状の緩和を目的におこなわれることも一般的です。
肺がんにおける放射線治療の目的

肺がんの放射線治療は目的によって治療方法が異なります。
ここからは、肺がんにおける放射線治療の目的についてみていきましょう。
根治を目的とした放射線治療
限局型*の小細胞肺がん、および非小細胞肺がんのⅠ期~Ⅲ期では、根治を目的とした放射線治療が適応となります。なかでも、非小細胞肺がんのⅠ期~Ⅲ期で何らかの理由によって手術や薬物療法がおこなえない患者さんにとっては、放射線治療が第一選択になります。
*限局型:片肺と近接したリンパ節内にがんがとどまっているタイプ
化学療法と併用する放射線治療
放射線治療と薬物療法を同時期におこなう「化学放射線療法」は、局所進行の肺がんの根治を目的とした標準治療として用いられています。おもに、限局型の小細胞がんと非小細胞肺がんⅢ期が治療の対象で、併用治療後に免疫チェックポイント阻害剤を投与することで再発を抑制するという流れが近年の傾向になっています。
緩和を目的とした放射線治療
遠隔転移がみられるⅣ期の肺がんには、脳転移や骨転移による症状、気道閉塞による呼吸苦や咳・喀血を和らげるために放射線治療を行うことは有用です。
緩和を目的におこなわれる放射線治療の有害事象(副作用)は比較的少なく、QOL(生活の質)の改善が期待できます。
肺がんの放射線治療の種類

放射線治療にはいくつかの方法があり、肺がんの種類や病期(ステージ)、患者さんの状態によって使い分けられます。
ここからは、放射線治療の種類とそれぞれの特徴や適応について解説していきます。
三次元原体照射(3D-CRT)
CT画像を用いて腫瘍の形状を三次元的に把握し、その形に合わせて放射線を照射する方法です。現在、肺がんの放射線治療において広くおこなわれている外部照射法のひとつです。
広い範囲に均一に線量を届けやすいという特徴がありますが、腫瘍の形状が複雑な場合や、肺の正常な部位への線量をより厳密に制限したい場合には、強度変調放射線治療(IMRT)などのより高精度な治療法が検討されることがあります
適応となるおもなケースは以下のとおりです。
- 局所進行肺がんに対する化学放射線療法
- 術後の転移・再発予防のための補助放射線治療
- 症状の緩和を目的とした放射線治療
強度変調放射線治療(IMRT)
コンピューター制御により、放射線の強さ(強度)を細かく調整しながら照射する方法です。腫瘍の形状に合わせて線量分布を最適化できるため、正常な組織への影響を抑えながら腫瘍に十分な線量を集中させることが可能とされています。
ただし、治療計画が複雑なため、経験の豊富な放射線治療専門医と医学物理士などによる治療が必須です。また、厚生労働省により治療施行に際しての施設基準が定められているため、治療を受けられる医療機関も限られています。
強度変調放射線治療(IMRT)が有効とされているのは、おもに以下のようなケースです。
- 心臓や食道などの重要臓器に近接しているケース
- 広範囲リンパ節を含めた照射が必要な局所進行したケース
- 肺機能の低下がみられ、肺の正常部位への線量をできる限り抑えたいケース
定位放射線治療(SBRT)
腫瘍の位置を誤差わずか数mmと高精度に特定し、高線量を集中的に照射する方法です。1回あたりの線量が高いため、多くの場合、3~5回程度と少ない回数で治療が完了します。
定位放射線治療(SBRT)は高い局所制御率が報告されており、手術が難しい患者さんにとって重要な根治的治療の選択肢となっています。ただし、腫瘍が気管支の太い部位や大血管の近くにある場合などは、適応についての慎重な判断が必要です。
適応となるおもなケースは以下のとおりです。
- 非小細胞肺がんのI期
- 腫瘍が小さいケース(一般的には5cm以下)
- 手術適応ではない、あるいは患者さんが手術を希望しないケース
- 合併症や年齢(高齢)により外科的切除のリスクが高いケース
粒子線治療(陽子線・重粒子線)
水素(陽子線)や炭素(重粒子線)の原子核を大型の加速器で加速し、線量分布の特殊性を利用して線量を集中させて腫瘍に照射する高精度な放射線治療です。そのため、正常な組織への線量をより抑えることができるとされています。
ただし、粒子線治療を実施している施設は全国に26か所(2025年11月現在)と限られており、治療の適応や保険適用の有無を含め、専門医による慎重な判断が必要とされます。
参考:公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団「日本の粒子線治療施設の紹介」
粒子線治療の適応が検討されるケースは以下のとおりです。
- 早期肺がんで高精度照射が必要なケース
- 既存の肺疾患があり、線量の制限を厳密におこなう必要があるケース
- 再照射など、通常の放射線治療が難しいと考えられるケース
肺がんの放射線治療に期待できる効果

ここまで肺がんの放射線治療の種類や特徴、適応などについて説明してきましたが、ここからは放射線治療に期待できる効果について解説していきます。
早期肺がん
非小細胞肺がんのI期では、定位放射線治療(SBRT)が根治的治療の選択肢となります。なかでも、手術が困難であると診断された患者さんにとっては重要な治療方法です。
定位放射線治療(SBRT)では高い局所制御率が報告されており、腫瘍の増大を抑えることに期待できます。ただし、手術療法との長期的な予後の比較は、患者さんの状態により異なるため、専門医による適切な判断が求められます。
局所進行肺がん
局所進行肺がんのIII期以降では、放射線治療と薬物療法を組み合わせておこなう化学放射線療法が標準治療のひとつとされています。両者を併用することで、腫瘍の縮小・転移の抑制が期待できます。
さらに、近年は化学放射線療法後に免疫療法を導入する医療機関も増えており、治療成績の向上が報告されています。ただし、使用する薬物(抗がん剤)の有害事象(副作用)管理が大きな課題となるので、抗がん剤治療の専門医とのチーム医療が望ましいです。
放射線治療の効果に影響する要因
放射線治療の効果に影響する要因として、以下のようなものが挙げられます。
- 病期(ステージ)
- 腫瘍の大きさや位置
- 組織型(非小細胞・小細胞)
- 全身状態
- 合併症の有無
- 治療完遂の可否
特に、間質性肺炎などの既存の肺疾患がある場合、十分な線量を安全に照射できないことがあります。そのため、治療の適応を判断する際は、治療効果とリスクの慎重な比較検討が必要となります。
肺がんの放射線治療後にみられる有害事象(副作用)

がんに集中的に放射線を照射する放射線治療ですが、周囲の正常な組織にも影響が及ぶことがあります。有害事象(副作用)の程度は、照射範囲や線量、もともとの肺機能や合併症の有無などによって異なります。ここでは、肺がんの放射線治療後にみられる有害事象(副作用)について解説していきます。
急性期副作用(治療中~数週間)
治療開始後から終了後数週間以内にみられる症状を、急性期有害事象(副作用)といいます。
おもな急性期有害事象(副作用)として、倦怠感・放射線食道炎(飲み込みづらさや胸の違和感)・皮膚炎などが挙げられます。いずれも一時的な症状であり、治療終了後に改善することが一般的です。
晩期有害事象(副作用)
晩期有害事象(副作用)は、治療終了から数か月以降にあらわれる可能性のある症状です。
代表的なものに放射線肺炎があり、咳・息切れ・発熱などがみられることがあります。多くは軽症にとどまりますが、必要に応じてステロイド治療がおこなわれます。
有害事象(副作用)リスクを高める要因
肺がんの放射線治療による有害事象(副作用)には、既存の肺疾患・喫煙歴・高線量・広範囲照射・全身状態の低下などが関与しているとされています。そのため、治療前には画像検査や呼吸機能検査によるリスク評価がおこなわれます。
有害事象(副作用)を過度に恐れる必要はありませんが、事前にどのような症状があらわれる可能性があるのかを理解し、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが大切です。
肺がんの放射線治療を検討する際に注意すべきこと

放射線治療は肺がん治療における重要な治療方法のひとつですが、すべての患者さんに適応となるわけではありません。ここでは、肺がんの放射線治療を検討する際に注意するべきポイントについて解説していきます。
定期通院の可否
放射線治療では、週5回程度の通院による照射治療を数週間継続することが一般的です。そのため、自宅から医療機関までの距離や通院手段、体力面の負担などを考慮する必要があります。
ただし、定位放射線治療(SBRT)の場合は通院回数が少なくて済むことがあります。治療方法によってスケジュールが異なるため、あらかじめ確認しておくことが重要です。
仕事・日常生活への影響
放射線治療中であっても、体調が安定していれば仕事を続けたり、普段どおりの日常生活を過ごしたりすることは可能です。ただし、倦怠感や食道炎などの有害事象(副作用)が生じることがあるため、無理をせずに活動を調整することが大切です。
高齢者への適応
高齢であっても、全身状態が良好であれば放射線治療を検討することは十分に可能です。むしろ手術が困難な高齢者の方にとっては、放射線治療が重要な選択肢となることがあります。放射線治療の適応は年齢のみで決まるわけではなく、生活機能や合併症の有無などを含めて総合的に判断されます。
治療目的の理解
放射線治療の目的が「根治」であるのか、または「症状の緩和」であるのかにより、期待される効果や治療期間は異なります。治療のゴールを明確に理解しておくことで、納得して治療に臨むことができます。治療についての不安や不明な点については、事前に放射線治療医に相談してクリアにしておきましょう。
セカンドオピニオンの活用
治療方針に納得できないという場合や、ほかの選択肢についても知りたい場合には、セカンドオピニオンを活用することも選択肢のひとつです。
放射線治療の適応や治療方法の選択は、医療機関によって異なることがあります。複数の専門医の意見を参考にすることによって、より納得のいく決定につながるでしょう。
肺がんの放射線治療についてよくある質問

最後に、がんの放射線治療についてよくある質問にお答えしていきます。
肺がんの放射線治療は何回ぐらい必要?
肺がんの放射線治療の回数と期間は、おおむね以下のとおりです。
ただし、それぞれの患者さんの状態により、スケジュールや回数が変動することがあります。通常は、4-5回/週で、土曜日、日曜日は照射治療をしません。
- 早期肺がんに対する定位放射線治療(SBRT)の場合
1〜10回(多くは4〜5回)/1〜2週間程度 - 局所進行がんに対する根治的放射線治療の場合
30〜35回/6〜7週間(週5回照射) - 小細胞肺がんに対する化学放射線療法の場合
30回/約3週間(1日2回照射) - 症状緩和を目的とした放射線治療の場合
5〜15回程度/期間は状況により変動
肺がんの放射線治療のデメリットは?
肺がんの放射線治療のデメリットとしては、有害事象(副作用)のリスクがあること、通院照射回数が多いことなどが挙げられます。ただし、照射技術の進歩により正常な組織への影響は軽減されており、治療方法によっては有害事象(副作用)を抑えることが可能になってきています。
肺がんの放射線治療の費用は?
肺がんの放射線治療の費用は、治療方法によって異なります。
健康保険適用(3割負担)を前提とした場合、費用の目安は以下のとおりとなります。
- 通院による一般的な放射線治療: 約20〜40万円
- 定位放射線治療(SBRT): 約20〜30万円(5回程度)
- 強度変調放射線治療(IMRT): 約30〜45万円(20〜30回程度)
粒子線治療(陽子線・重粒子線)ついては、保険適用外の場合は約300万円前後の費用がかかりますが、一定の条件で保険適用となるケースもあります。
また、高額医療制度を利用することにより費用の軽減も可能ですので、事前に医療機関の担当窓口で確認しておくことをおすすめします。
まとめ

肺がんの放射線治療は、根治を目指す治療から症状の緩和まで幅広く適応されている治療方法のひとつです。また、手術療法や薬物療法と組み合わせておこなうことにより、より高い治療効果にも期待することができます。
放射線治療にはいくつかの選択肢があり、それぞれ特徴や期待できる効果、適応が異なります。近年では、腫瘍に対して高精度で集中的に照射できる技術が導入されたことにより、治療効果も上昇し、有害事象(副作用)のリスクも軽減する傾向にあります。ただし、どの放射線治療が適応となり、何を目的に治療をおこなうかは、肺がんの組織型(非小細胞・小細胞)や病期、患者さんの状態によって判断が変わってきます。そのため、放射線治療を検討する際は、専門医に納得いくまで相談することが重要です。
「会って話せる医療相談」では、肺がんをはじめとしたがん放射線治療の経験・実績が豊富な放射線治療専門医が診察を担当しております。紹介状や画像検査の結果などがなくてもご受診いただけますので、ぜひお気軽にご相談ください。

【コラム監修者】
山下 孝(やました たかし) 先生
元がん研究会有明病院 副院長 / 放射線科 部長
日本放射線腫瘍学会 第16回学術大会 会長
がん治療を牽引するがん研有明病院において、副院長・放射線治療部部長として数多くの症例に携わってきた放射線治療の名医である。アイソトープ協会専務理事として国際学会にも継続的に参加し、日本の放射線治療の発展に尽力。外科治療に代わる放射線治療の選択肢について豊富な経験に基づく助言を行っている。