
脳動脈瘤は、脳の血管の一部が何らかの原因でコブ状にふくらむ疾患で、破裂するとくも膜下出血を起こし、命にかかわる重篤な状態になることがあります。日本人の約3~5%が脳動脈瘤をもっているとされており、欧米人よりも破裂しやすい傾向があることが明らかになっています。
また、脳血管疾患は日本人の死因の第4位であるとともに、要介護に及ぶ主要な原因でもあります。そのため、脳動脈瘤を早期に発見して適切な治療をおこなう重要性が指摘されているのです。
本記事では、脳動脈瘤という疾患をあらためて見直すとともに、近年注目を集めている「フローダイバーター」による新しい血管内治療について詳しく解説していきます。脳動脈瘤を診断された方や治療方法の選択に悩んでいる方、そのご家族の方はぜひ最後までご覧ください。
脳動脈瘤とは

脳動脈瘤とは、脳を走る動脈の壁の一部が薄くなり、その部分が風船のように膨らんだ状態を指します。おもに、血管が分岐する部位など、血流の負担がかかりやすいところに発生しやすい傾向があります。
脳動脈瘤の多くは破裂することなく、ほぼ無症状で経過します。この状態は「未破裂脳動脈瘤」と呼ばれ、健康診断や脳ドックで偶然見つかるケースも少なくありません。
ただし、脳動脈瘤そのものは良性の病変ですが、破裂するとくも膜下出血を引き起こし重篤な状態になる可能性があります。くも膜下出血は、致死率や後遺症のリスクが高いことでも知られており、早期に発見して適切な治療と管理をおこなうことが重要とされています。
脳動脈瘤の原因
脳動脈瘤の決定的な原因は明らかになっていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
おもな要因としては、加齢・高血圧・動脈硬化・喫煙・過剰な飲酒・薬物使用などが挙げられます。これらの生活習慣や症状は血管の壁に負担をかけ、脳動脈瘤を形成する原因となります。また、家族歴がある場合は発症リスクが高まることが知られており、遺伝的要因も無視することはできません。さらに、閉経後の女性にくも膜下出血の発症が多くみられることから、女性ホルモンのひとつであるエストロゲン減少との関連も示唆されています。
そのほか、頭部外傷や感染症、腫瘍なども原因になりうると考えられています。
脳動脈瘤の症状
未破裂脳動脈瘤の多くは自覚症状がなく、気づかないまま長期間経過することも珍しくありません。ただし、動脈瘤が大きくなると神経が圧迫され、以下のような症状がみられることがあります。
- 頭痛
- めまい
- まぶたが垂れ下がる(眼瞼下垂)
- ものが二重になって見える(複視)
- 視野が狭くなったり、視力が低下したりする
一方、脳動脈瘤が破裂すると、これまで経験したことのない突然の激しい頭痛に襲われます。また、頭痛とともに以下の症状をともなうことがあります。
- 意識障害
- 吐き気・嘔吐
- けいれん
- 光をまぶしく感じる(光過敏)
- 強い首の張り・痛み(項部硬直)
これらの状態は緊急性が非常に高いため、速やかに救急要請をおこなうなどの医療対応が必要となります。
脳動脈瘤の治療適応
脳動脈瘤(未破裂)が見つかったとしても、すべてが直ちに治療の対象となるわけではありません。治療の適応は、動脈瘤の大きさや形状・部位・基礎疾患・年齢など、破裂リスクを総合的に判断して決定されます。
<治療適応を判断するおもな要因>
| 大きさ・形状 | 5~7mm以上である ただし、5mm未満でも不整形・ブレブ(小さいコブ)がある場合は治療を検討する |
| 発生部位 | 前交通動脈・内頸動脈後 交通動脈分岐部・中大脳動脈分岐部などの破裂しやすい部位にみられる |
| 症状 | 頭痛・複視・眼瞼下垂などの神経症状がみられる |
| 年齢 | 若年(70歳以下)で長い余命が見込める |
| 危険因子の有無 | 高血圧・喫煙・家族歴(くも膜下出血などの既往)がある |
| 動脈瘤の変化 | 経過観察中に大きさや形状に変化がみられた |
破裂リスクが低いと判断された未破裂動脈瘤は、多くの場合で定期的な画像検査による経過観察がおこなわれます。一方、破裂してくも膜下出血を発症した場合は、72時間以内に治療をすることが必須とされています。
脳動脈瘤の治療の選択肢

脳動脈瘤の破裂を防ぐ治療には複数の選択肢があり、動脈瘤の大きさや形状・発生部位・年齢や全身状態などを総合的に判断して選択されます。
代表的な治療法としては、開頭手術による「クリッピング術」、血管内から治療をおこなう「コイル塞栓術」、新しい治療方法として近年として注目されている「フローダイバーター」の3つが挙げられます。
ここでは、この3つの脳動脈瘤治療について解説していきます。
クリッピング術
クリッピング術は開頭しておこなう手術で、脳動脈瘤の根元を金属(チタン製)のクリップで挟み、病変部位への血流を遮断することにより破裂を防ぎます。
脳動脈瘤そのものを血流から完全に除外できるため、治療の確実性が高く、再発のリスクが低いことが大きな利点です。 なかでも、分岐部にできた動脈瘤、形状が複雑な動脈瘤、脳表面に近い動脈瘤にはクリッピング術が有効だとされています。
一方で、全身麻酔下での開頭手術が与える身体への負担は大きく、術後の回復には一定の時間を要します。そのため、クリッピング術を選択する際には、年齢や全身状態を考慮した慎重な判断が求められます。
コイル塞栓術
コイル塞栓術は、足の付け根や手首の血管から細いカテーテルを挿入しておこなう血管内治療です。
カテーテルを脳動脈瘤まで誘導し、そのカテーテルを通してプラチナ製のコイルを動脈瘤内に充填します。するとコイルはやがて血栓化し、脳動脈瘤への血流が遮断されて破裂を防ぐことができます。開頭が不要なため身体への負担が比較的少なく、入院期間も数日~1週間程度と短いことから、高齢者や全身状態に不安がある患者さんにもおこなわれることがあります。
しかし、動脈瘤の形状によってはコイルが安定しにくく、再治療が必要となるケースが約10~30%あるとされています。そのため、動脈瘤への入り口が広い病変(ワイドネック)や不規則な形状のみられる動脈瘤、サイズの大きい動脈瘤には適応とならないことがあります。
フローダイバーター
フローダイバーターは、コイル塞栓術と同じくカテーテルを使用しておこなわれる血管内治療です。
カテーテルを脳動脈瘤まで到達させ、非常に細かい網目状のステント(フローダイバーター)を動脈瘤の根元(ネック)に広げて留置します。これにより瘤内の血流が減少して自然な血栓化が促され、脳動脈瘤が縮小・閉塞していきます。
サイズの大きな動脈瘤やワイドネックなど、クリッピング術やコイル塞栓術では治療困難な脳動脈瘤にも適応されている最新の治療方法です。瘤内に金属を入れないため、術中破裂のリスクも低く、3つの治療方法のなかでも安全性が高いとされています。
ただし、フローダイバーターの術後は、抗血小板薬の服用や遅発性出血のリスクを回避するための周術期管理が必須となります
脳動脈瘤でフローダイバーターが適応となるケース

脳動脈瘤の新たな血管内治療として注目されているフローダイバーターですが、残念ながらすべてのケースで適応となるわけではありません。
フローダイバーターが適応となるのは、おもに以下のような脳動脈瘤です。
- 最大瘤径が5mm以上、特に10mm以上の大型の脳動脈瘤
- 瘤内への入り口が広い脳動脈瘤(ワイドネック)
- クリッピング術(開頭手術)やコイル塞栓術では治療困難な脳動脈瘤
ただし、フローダイバーターは治療方法として確立されてから日が浅いため、クリッピング術やコイル塞栓術と比較した場合のメリット・デメリットを考慮しながら、もっとも安全な選択をおこなうことが重要です。
フローダイバーターのメリット

脳動脈瘤におけるフローダイバーターのメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- 低侵襲である
開頭をともなわず、脚の付け根や手首の血管からカテーテルを挿入して治療するため、患者さんへの身体的負担が少なく、入院期間も短い傾向があります。 - 大型や難治性の脳動脈瘤にも有効である
コイル塞栓術で再発しやすい大型の脳動脈瘤やワイドネックの病変も、高い確率で完治(血栓化・閉塞)を目指すことができる。 - 再発率が低い
ステント(フローダイバーター)を留置すると、血栓化により瘤内への血流が遮断されるだけではなく、親血管(脳動脈)が健康な血管の状態へと修復されます。そのため、恒久的な効果に期待できます。 - 術中破裂のリスクが低い
脳動脈瘤の薄い壁に直接触れるようなカテーテル操作が少ないため、コイル塞栓術よりも術中破裂のリスクが低いとされています。
特に、フローダイバーターが低侵襲の治療であることは、「開頭手術が適応とならない高齢者にも治療の可能性が見出せる」という点で大きな意味をもつといえるでしょう。
フローダイバーターのデメリット

フローダイバーターには多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。そのため、脳動脈瘤の治療方法としてフローダイバーターを検討する際は、メリット・デメリットの両方を考慮することが大切です。
フローダイバーターのデメリットは、以下のとおりです。
- 抗血小板薬を服用しなければならない 留置したステント(フローダイバーター)内に血栓ができるのを防ぐため、治療の2週間前から抗血小板薬の服用を開始します。2剤を併用することが必須で、術後も最低で6か月、長い場合は2年程の服用が必要です。
- 治療効果があらわれるまで時間がかかる 個人差もありますが、脳動脈瘤が完全に閉塞するまでには数か月〜1年程度かかります。そのため、その間は破裂リスクが残ることになります。
- 適応範囲が限られている フローダイバーターは、サイズの小さい動脈瘤や特定の分岐部にある動脈瘤には適応とならないことがほとんどです。
- 完治に至らないこともある ステント(フローダイバーター)を留置しても100%血栓化するわけではなく、血栓化の確率は半年で約75%、1年で約85%といわれています。そのため、治療後も再発する可能性はゼロではありません。
フローダイバーターに限らず、ほとんどの手術や治療には何らかのデメリットやリスクがともないます。最適な治療方法を選択するためには、信頼のできる専門医に納得いくまで相談することが大切です。
脳動脈瘤におけるフローダイバーターについてよくある質問

最後に、フローダイバーターについてよくある質問に回答していきます。
フローダイバーターと通常のステントは何が違うのですか?
フローダイバーターは、脳動脈瘤のある血管の根元に留置して血栓化を促し、瘤内への血行を減少させるために用いられるステントです。
細かい網目(メッシュ)が特徴で、時間をかけながら血管を再構築することにより脳動脈瘤を自然に閉塞させます。そのため、従来の方法では治療が難しかった脳動脈瘤にも適応となる場合があります。
一方で通常のステントは、おもにコイル塞栓術をサポートする目的で使用されます。瘤内に充填したコイルが血管内に逸脱しないように支え、血管の形を保つ役割を担っています。血流そのものを変えたり、血管を修復したりする機能はなく、ステントだけでは脳動脈瘤を治癒することはできません。
フローダイバーターは脳動脈瘤の治療に直接関与するステントですが、通常のステントはコイル塞栓術をサポートするステントであるということが大きな違いです。
フローダイバーターの費用はどれくらいかかりますか?
フローダイバーターによる治療には公的医療保険が適用されます。その場合の自己負担額は、3割負担の方で30万〜60万円前後が目安となります。ただし、留置するフローダイバーターの本数や入院期間などによって費用は変動します。
また、高額療養費制度を活用することで、さらに自己負担額を軽減できる可能性があります。高額療養費制度とは、医療機関に支払った自己負担額が定められた上限額を超えた場合、その超えた分の費用が公的医療保険から払い戻される制度です。上限額は所得や年齢に応じて区分が定められていますので、自分がどの区分にあたるのか、自治体や加入している健康保険組合に確認しておくと安心でしょう
フローダイバーターの術後の注意点は?
フローダイバーターの術後で特に重要なのは、抗血小板薬を医師の指示どおり継続して内服することです。自己判断で中止すると、血栓や脳動脈破裂のリスクが高まります。
また、フローダイバーターの場合は動脈瘤が時間をかけて閉塞していくため、定期的な画像検査による経過観察が必要です。術後しばらくは激しい運動や過度な飲酒を控え、頭痛・めまい・視覚異常などの症状があらわれたら速やかに医療機関を受診してください。
まとめ

今回の記事では、新たな脳動脈瘤の治療方法であるフローダイバーターについて詳しく解説してきました。
脳動脈瘤は、未破裂の時点では自覚症状があらわれないことが多い一方、破裂するとくも膜下出血を引き起こして命を左右する疾患です。これまでは、クリッピング術やコイル塞栓術が治療の中心となっていましたが、サイズの大きい動脈瘤や特定の部位にできた動脈瘤など、治療が適応とならないケースもみられました。
しかし、フローダイバーターの出現により、これら難治性の脳動脈瘤にも治療の可能性がみえてきたのです。フローダイバーターに限らず、それぞれの治療方法には適応やメリット・デメリットがあります。自分にとって最適な治療を選択するためには、信頼のできる専門医に納得いくまで相談することが何より大切です。
「会って話せる医療相談」では、脳動脈瘤の診断・治療に数多く携わってきた医師が診察を担当しております。開頭手術・血管内手術の適応を見極め、もっとも有効と考えられる治療方法をご提案いたします。紹介状や画像検査の結果がお手元になくても受診可能ですので、脳動脈瘤の治療方法にお悩みの方やそのご家族の方は、ぜひ一度お問い合わせください。