
脳腫瘍と診断された、あるいは「脳腫瘍の疑いがある」と言われたとき、突然のことで強い不安や戸惑いを感じる方は少なくありません。
「どうして自分が?」「原因は何だったのだろう」と、頭の中が整理できないまま時間が過ぎていくこともあるでしょう。
脳腫瘍は、発症の原因がはっきり分かっていないケースも多い病気です。しかし、原因や考えられている要因を知ることは、病気を正しく理解し、今後の検査や治療の選択肢を考えるうえでの大切な手がかりになります。
この記事では、脳腫瘍の原因として考えられていることを整理したうえで、症状の特徴、検査方法、治療方法の選択肢についても分かりやすく解説します。
「今の診断や治療方針について、もう少し理解を深めたい」と感じている方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
脳腫瘍とは

脳腫瘍とは、頭蓋骨の内側に腫瘍(できもの)が発生する病気です。厳密には「がん」ではないものの、「脳がん」と呼ばれることもあります。
脳腫瘍と一口に言っても、脳のどの部位に、どのようにして腫瘍ができるかでいくつかの種類に分けられます。腫瘍のでき方で分けると「原発性脳腫瘍」と「転移性脳腫瘍」の2種類です。
原発性脳腫瘍は、脳細胞・髄膜・脳神経といった脳の組織に発生する腫瘍です。腫瘍ができる部位によって「神経膠腫」「髄膜腫」「下垂体腺腫」「神経鞘腫」など数多くの種類に分けられます。
もう1つの転移性脳腫瘍は、他臓器で発生したがんが脳に転移することで発生する脳腫瘍です。肺がんからの転移が最も多く、次いで乳がんや大腸がんからの転移も多いと言われています。
脳腫瘍を引き起こすと考えられる原因

脳腫瘍と聞くと、「脳の中にできる悪性の腫瘍」を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実際には脳腫瘍の半数以上は良性腫瘍とされています。
ここでは、脳腫瘍の発生に関わる主な要因について解説します。
良性腫瘍を引き起こす原因
良性腫瘍の発症メカニズムは、現時点ではまだ明確に解明されていませんが、良性腫瘍の多くは、脳を包む膜である髄膜(髄膜腫)、脳から伸びる神経(神経鞘腫)、下垂体(下垂体腺腫)などの組織から発生すると考えられています。
これらは、遺伝子の変異などをきっかけに、脳や神経、硬膜などの細胞が異常に増殖することで発症するもので、日常的なストレスや生活環境が直接の原因になるとは考えられていません。
悪性腫瘍を引き起こす原因
主な原因として考えられているのが、脳を構成する細胞の遺伝子変異です。細胞の遺伝子が傷付くと、本来とは異なる細胞が作られるようになり、異常な細胞のかたまりである「腫瘍」が発生します。
遺伝子変異というと家族間の遺伝をイメージする方もいるでしょう。
しかし、遺伝子変異を原因とする脳腫瘍の多くは細胞に生じた突然変異であり、一部の脳腫瘍では遺伝によって生じるケースもあるものの、一般的に家族間で遺伝することは多くありません。
また、遺伝子変異のほかにも、脳腫瘍の原因には下記のような外的要因が考えられます。
頭部への放射線照射
頭部への放射線照射は脳腫瘍を発症する原因の1つです。厚生労働省によると、被ばく線量100mSv以上から放射線被ばくと脳腫瘍の発症との関連がうかがわれるとされています。
参考:厚生労働省ホームページ「脳腫瘍と放射線被ばくに関する医学的知見を公表します」
JCウイルスなどのウイルス感染
多くの成人に潜伏感染しているJCウイルスが、脳腫瘍の発生に関与すると考えられています。JCウイルスは、子どもに多い脳腫瘍である「髄芽腫」の発生を誘導するという研究もあります。
ほかに、SV40ウイルスの感染が一部の脳腫瘍の発生に関与するとも考えられています。
参考:東京医科大学 脳神経外科ホームページ「脳腫瘍総論」
脳腫瘍であらわれる主な症状

脳腫瘍が発生するとあらわれる症状は、主に頭蓋内圧亢進症状・てんかん・局所神経症状の3つです。
また、脳腫瘍には、周辺組織への浸潤・転移や再発を起こしにくい「良性腫瘍」と、浸潤・転移や再発を起こしやすい「悪性腫瘍」の2つがあります。悪性の脳腫瘍は進行が比較的速く、深刻な症状もあらわれやすいため注意してください。
頭痛や嘔吐に代表される頭蓋内圧亢進症状
頭蓋内圧亢進症状とは、脳腫瘍の増大によって頭蓋内の圧力が高まることであらわれる症状です。具体的な症状には頭痛や嘔吐、うっ血乳頭(視神経乳頭の腫れ)があります。
特に頭痛と嘔吐は、脳腫瘍の特徴といえる症状です。
脳腫瘍を原因とする頭痛は間欠的にあらわれ、朝の起床時に強く痛み、日中には軽快する傾向があります。
嘔吐については、吐き気がないにもかかわらず突然に嘔吐を起こすという症状が見られます。
良性腫瘍であらわれやすいてんかん
てんかんは、脳の神経細胞が一時的に過剰に反応して、全身のけいれん発作やしびれを起こす症状です。脳腫瘍などの脳疾患を原因とするてんかんは「症候性てんかん」と呼ばれます。
症候性てんかんは、比較的進行が緩やかな腫瘍で初発症状としてあらわれることが多いとされています。特に高齢で初めててんかんがあらわれた場合は、脳腫瘍を発症している可能性が考えられます。
腫瘍の発生部位により異なる局所神経症状
脳腫瘍の症状には、腫瘍が脳のどの部位にできているかによって症状のあらわれ方が異なる「局所神経症状」もあります。主な局所神経症状は下記の4つです。
・失語症
失語症は、言葉をうまく発せなくなる「運動性失語」や、相手の言葉を理解できなくなる「感覚性失語」などが見られる症状です。腫瘍が前頭葉に発生すると運動性失語が、側頭葉に発生すると感覚性失語があらわれやすいとされています。
・視力低下や視野障害
腫瘍が側頭葉や後頭葉、視交叉・視床下部にできていると、急激な視力低下や視野障害があらわれます。特に視野障害は、腫瘍がある側とは反対側の視野が欠ける「同名半盲(例:腫瘍が右側なら、両眼とも左側の視野が欠ける)」であらわれることが特徴です。
・高次脳機能障害
高次脳機能障害は、記憶力や注意力が著しく低下し、日常生活に支障をきたす状態のことです。前頭葉に腫瘍ができている場合、高次脳機能障害があらわれる可能性があります。
・手足のしびれや麻痺
前頭葉に腫瘍ができていると、腫瘍がある側とは反対側の手足にしびれや麻痺があらわれます。
脳腫瘍になりやすい人の特徴

国内では、原発性脳腫瘍は10万人あたり20人前後が罹患すると報告されており、比較的まれな病気です。原発性脳腫瘍は発症の原因も明確に分かっていないため、どのような人が発症するかは完全には解明されていません。
しかし、脳腫瘍になりやすい人にはおおよその傾向や特徴があります。ここでは脳腫瘍になりやすい人にはどのような特徴があるかを解説します。
参考:大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター「脳腫瘍」
高齢者である
脳腫瘍は高齢であるほど発症しやすいといわれています。年齢を重ねると細胞の構造が変化して遺伝子変異を起こしやすくなり、脳腫瘍を発症するリスクが高くなるためです。
ただし、脳腫瘍はすべての年齢層で発症し得る病気であり、若年層でも罹患する可能性はあります。脳腫瘍において、加齢は一つのリスク要因と考えるとよいでしょう。
高レベルの放射線に曝露したことがある
脳腫瘍の原因の一つとして「頭部への放射線照射」が挙げられるように、高レベルの放射線に曝露したことがある人は脳腫瘍のリスクが高まることが知られています。放射線治療を過去に受けたことがある方は、強い頭痛・嘔吐などの症状があらわれた際には注意しましょう。
なお、太陽光やX線検査といった日常生活における低レベルの放射線は、脳腫瘍のリスクにつながらないとされています。
家族に脳腫瘍や遺伝性疾患の既往歴がある
多くの脳腫瘍は家族間の遺伝が起こらないものの、下記のような遺伝性疾患は脳腫瘍のリスクを高めることがあります。
- 神経線維腫症1型、2型
- 結節性硬化症
- リンチ症候群
- リー・フラウメニ症候群
- フォン・ヒッペル・リンドウ病
家族に脳腫瘍や遺伝性疾患の既往歴がある方は、脳腫瘍になりやすい特徴が自分に遺伝していないかを調べることが大切です。
高身長や高BMIなどの体格をしている
高身長や高BMIといった身体的特徴が脳腫瘍のなりやすさに関係しているという研究があります。特に男性はBMIが高いと髄膜腫のリスクが増加しやすいとされており、体型が肥満傾向にある方は注意が必要です。
参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター「体格と脳腫瘍の罹患リスクとの関連について」
脳腫瘍の検査方法

脳腫瘍が疑われる症状があらわれたときは、病院・クリニックなどの医療機関で脳腫瘍の検査を受けましょう。脳腫瘍の検査方法は、主に下記の3つが挙げられます。
頭部CT検査、頭部MRI検査
頭部CT検査はX線、頭部MRI検査では磁気を用いて、頭蓋内を撮像して腫瘍の有無や発生部位などを調べます。
また、脳の運動野や言語野の位置を特定するために、機能的MRI(fMRI)と呼ばれる特殊なMRI検査を実施するケースもあります。
PET検査
PET検査は、放射性同位体で標識したブドウ糖を注射し、腫瘍領域を撮像する検査方法です。腫瘍細胞は正常な細胞よりもブドウ糖を多く消費する性質があり、標識されたブドウ糖がどの部位に集まっているかで腫瘍の有無を判別します。
ただし、正常な脳細胞もブドウ糖を多く消費する性質があるため、脳腫瘍の場合は標識したアミノ酸を用いたPET検査も実施されています。
髄液検査
子どもに多い「髄芽腫」などの脳腫瘍では、髄液を採取して腫瘍の広がりを調べる髄液検査をおこなうことがあります。
脳腫瘍の治療方法

脳腫瘍の治療方法は、腫瘍の悪性度や進行、身体状態などに応じて選択します。主な治療方法は下記の3つです。
手術
外科手術によって腫瘍を摘出する治療方法です。手術によって摘出できれば腫瘍の容積を減少でき、特に良性腫瘍であれば完治も期待できます。
ただし、すべての脳腫瘍の治療に手術が適しているわけではありません。腫瘍が運動野や言語野に発生している場合は、摘出すると症状が悪化するおそれがあり、他の治療方法を選択することもあります。
放射線治療
高エネルギーな放射線を用いて腫瘍細胞にダメージを与え、腫瘍の死滅や増殖抑制を目指す治療方法です。主に良性腫瘍やサイズの小さい悪性腫瘍ではピンポイントに放射線を照射し、悪性腫瘍の場合は浸潤の可能性がある周囲の細胞も含めて照射します。
化学療法
悪性腫瘍に対して作用する抗腫瘍薬を使用し、腫瘍の増殖を抑制する治療方法です。化学療法は、手術や放射線治療の補助療法として選択されることが多い傾向にあります。
脳腫瘍に関するよくある質問
最後に、脳腫瘍に関するよくある質問にお答えします。脳腫瘍について疑問や不安を感じている方はぜひ参考にしてください。
ストレスが原因で脳腫瘍が発生することはありますか?
精神的ストレスや生活習慣による身体的ストレスが脳腫瘍の原因だと示唆する声もありますが、直接的な原因になるとは明確には分かっていません。
これらが遺伝子変異に影響を与える可能性については研究が続けられている段階であり、現時点では確立したリスク要因とはされていません。
常に頭痛がするのは脳腫瘍の症状ですか?
脳腫瘍による頭痛は朝に強く痛む傾向があり、常に頭痛がするのは他の病気の可能性があります。
また、脳腫瘍の頭痛は鈍い痛みを感じやすいことが特徴です。ズキズキと脈打つような痛みを感じるケースは少ないとされています。
脳腫瘍の検査を受けるべき症状はありますか?
朝方に強く出る頭痛や急激な嘔吐、視力低下、手足のしびれ・麻痺といった症状が複数あらわれたら、なるべく早く脳の検査を受けたほうがよいでしょう。
特に40歳を超えている方や、高レベルの放射線に曝露したことがある方、脳腫瘍の既往歴がある家族がいる方は、脳腫瘍のリスクが高いと考えられます。気になる症状があれば、まずは脳腫瘍に詳しい医師に相談することがおすすめです。
良性の脳腫瘍も手術しなければ治療できませんか?
手術は脳腫瘍の完治が期待できる治療方法であるものの、適しているかどうかは腫瘍の発生部位や大きさ、進行スピードなどによって変わります。
進行が遅い良性腫瘍や重要な機能を持つ部位にある腫瘍に対しては、放射線治療・薬物療法といった治療方法や、経過観察が選択されるケースもあります。
まとめ

脳腫瘍の原因には細胞の遺伝子変異や、頭部への高レベルの放射線照射・ウイルス感染などの外的要因があると考えられています。
脳腫瘍の主な症状としては頭痛・嘔吐やてんかん、腫瘍の発生部位によって異なる局所神経症状があります。気になる症状がある方は、医療機関の受診や脳腫瘍の検査を検討しましょう。
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紹介状や画像検査の結果がなくても受診していただけますので、脳腫瘍と診断された方や懸念される症状がある方は、ぜひ「会って話せる医療相談」までお問い合わせください。

【コラム監修者】
河瀬 斌(かわせ たけし) 先生
慶應義塾大学病院名誉教授(元副院長 / 脳神経外科教授)
第64回日本脳神経外科学会会長 / 日本頭蓋底外科学会理事長(創立者)
脳神経外科の枠にとらわれず、耳鼻科・眼科・形成外科と連携し「頭蓋底外科」という新たな分野を確立。脳腫瘍に対するあらゆる治療法の研究と実践を牽引してきた。日本頭蓋底外科学会初代理事長として学際的治療と国際交流を推進。慶應義塾大学脳神経外科教授、副院長、外科学教室主任教授を歴任し、現在も国内外で若手医師の教育に尽力している。