
圧迫骨折は、背骨を構成する椎体が押しつぶされて変形することにより引き起こされる骨折です。高齢者や骨粗しょう症の方に多くみられ、転倒などの明確な外傷がなくても、日常生活の動作をきっかけに生じる場合があります。骨折の直後は痛みがはっきりしないこともあり、いつの間にか骨折していたと気づくケースも少なくありません。
本記事では、圧迫骨折の起こる仕組みや症状、画像検査による評価などについてわかりやすく説明し、保存療法で改善しない場合に検討される「骨セメント療法」についても詳しく解説していきます。
目次
圧迫骨折とは

圧迫骨折に対する治療方法を理解するためには、まず圧迫骨折がどのような仕組みで起こり、どのような症状があらわれるのかを知ることが大切です。
はじめに、圧迫骨折が起こる仕組みと診断のポイントについて解説していきます。
圧迫骨折が起こる仕組み
圧迫骨折は、背骨を構成する「椎体(ついたい)」と呼ばれる骨の一部が、上下方向からの力によって押しつぶされるように変形することで引き起こされます。特に、骨粗しょう症の方の場合は骨の強度が低下しているため、転倒や尻もちといった衝撃で圧迫骨折が生じやすくなります。また、圧迫骨折は、くしゃみや前かがみ動作など、日常生活の些細な動作がきっかけとなることもあります。
圧迫骨折により椎体が押しつぶされると、骨の内側やその周りの組織に炎症が起こり、これが強い痛みの原因になります。圧迫骨折の程度によっては、背骨の変形が進行して姿勢の変化や慢性的な痛みにつながることがあります。
典型的な症状
圧迫骨折の典型的な症状は、腰や背中の痛みです。多くの場合、圧迫骨折は体を動かしたときに痛みが強くなり、安静にしていると比較的楽になるという特徴があります。ただし、圧迫骨折をした直後は痛みをそれほど感じず、数日から数週間かけて徐々に痛みが強くなるケースもみられます。
また、複数の椎体に骨折が生じると、背中が丸くなる、身長が縮むといった変化がみられることもあります。痛みが長引くことで日常生活の動作が制限され、活動量が低下する原因になることもあります。
X線・MRIで確認できること
圧迫骨折の診断では、X線検査やMRI検査が用いられます。X線検査では椎体の変形の有無を確認できますが、骨折直後では変化が分かりにくい場合もあります。
一方MRI検査では、圧迫骨折により骨の内側に生じた炎症や出血の状態を捉えることができ、今起きている新しい骨折かどうかを判断するのに役立ちます。MRIは圧迫骨折後の治療方針を決定するうえで重要な情報となり、保存療法を続けるか、骨セメント療法を検討するかの判断材料になります。
圧迫骨折の治療方法の概要

圧迫骨折の治療は、痛みの強さや経過、骨折の状態、全身の健康状態などを踏まえて、段階的に治療方針が検討されます。その選択肢のひとつとして骨セメント療法が挙げられます。ここでは、圧迫骨折の治療方法について解説していきます。
圧迫骨折の保存療法
圧迫骨折の治療は、まず「保存療法」から始めるのが一般的です。保存療法とは、手術をおこなわずに痛みの緩和や骨の回復を待つ治療方法で、安静、コルセットなどの装具療法、鎮痛薬の使用などが中心となります。
痛みが強い時期には無理に体を動かさず、日常生活の動作を調整しながら骨が自然に安定するのを待ちます。多くの場合、圧迫骨折の痛みは数週間から数か月をかけて徐々に和らぎ、日常生活に戻ることが可能になります。
保存療法で改善しないケース
保存療法をおこなっても、痛みが長期間続く場合もあります。特に、安静にしていても強い痛みが続く、体を動かすたびに痛んで日常生活に支障が出るといった場合には、治療方針の見直しが必要になることがあります。
また、圧迫骨折の痛みが原因で活動量が大きく低下すると、筋力の低下や体力の衰えにつながり、回復が遅れることもあります。このようなケースでは、保存療法以外の治療方法が検討されます。
保存療法以外の選択肢
保存療法で十分な改善が得られない場合、圧迫骨折に対する別の治療選択肢として「骨セメント療法」が検討されることがあります。
圧迫骨折に対する骨セメント療法は、圧迫骨折した椎体を内側から補強して痛みの軽減を目指す治療方法で、一定の条件を満たす患者さんに適応されます。すべての圧迫骨折におこなわれる治療ではなく、画像検査や症状の経過を踏まえたうえで、慎重に判断されます。
骨セメント療法とは

骨セメント療法は、圧迫骨折による強い痛みが続く場合に検討される治療方法のひとつです。背骨の中に医療用のセメントを注入することにより、つぶれた椎体を内側から支えて痛みの緩和や日常生活動作の改善を目指します。ここでは、圧迫骨折に対する骨セメント療法の基本的な考え方と、骨セメント療法の種類について解説します。
骨セメント療法の基本と種類
骨セメント療法は、圧迫骨折によって変形した椎体の内部に骨セメントと呼ばれる医療材料を注入し、骨を内側から安定させる治療です。骨セメントが固まることで、骨折部の微細な動きが抑えられ、体を動かした際の痛みが軽減すると考えられています。
骨セメント療法は、保存療法を一定期間おこなっても痛みが十分に改善しない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合に検討されます。手術といっても、背中に小さな針を刺しておこなう方法が一般的で、体への負担が比較的少ない点が特徴です。
骨セメント療法にはいくつかの方法があり、代表的なものとして「経皮的椎体形成術」と「バルーン後弯矯正術」があります。このふたつの骨セメント療法には、治療の目的や手技に違いがあります。
経皮的椎体形成とバルーン後弯矯正術の違い
経皮的椎体形成術は、椎体の内部にそのまま骨セメントを注入して骨を内側から補強する治療方法で、痛みの緩和をおもな目的としておこなわれます。
一方、バルーン後弯矯正術では、まず椎体の中に小さな風船(バルーン)を入れて膨らませ、つぶれてしまった椎体をある程度元の高さに近づけたうえでその空間に骨セメントを注入します。これにより、痛みの緩和に加えて背骨の変形を抑える効果にも期待することができます。
どちらの方法で骨セメント療法をおこなうかは、骨折や椎体の状態、患者さんの年齢や全身状態などを踏まえ、画像検査の結果をもとに医師が総合的に判断します。
骨セメント療法のメリット

「痛みがつらくて、横になっている時間が増えてしまった…」圧迫骨折では、このようなお悩みを抱える方も少なくありません。そのような場合に選択肢となる治療のひとつが骨セメント療法です。ここからは、骨セメント療法のメリットを紹介していきます。
体への負担が比較的小さい
骨セメント療法は、背中に小さな穴をあけ、細い器具を使って骨の中に薬剤を入れる治療です。保存療法で改善がみられない場合でも、体への負担を抑えながら治療を受けられる点が大きなメリットです。高齢の方や基礎疾患のある方にも検討されることがある治療で、局所麻酔でおこなわれるケースもあります。
痛みの緩和が期待できる
骨セメントが固まることで骨折した部分のぐらつきが抑えられ、体を動かしたときの痛みが緩和するとされています。特に、保存療法を続けても痛みが強く残る場合は、日常生活動作を少しでも楽にすることを目的として検討されます。また、急性期の圧迫骨折で強い痛みが長引いているケースに対しても、治療後に痛みが和らぐことが期待できます。
早期の動作回復
圧迫骨折による強い痛みで動くことが難しい状態が続くと、活動量の低下や筋力低下など、長期臥床につながるリスクが心配されます。骨セメント療法によって痛みが軽くなることで、起き上がったり歩いたりといった動作がしやすくなる可能性があります。
入院が短期間
医療機関や患者さんの状態にもよりますが、骨セメント療法は比較的短い入院期間で実施されることの多い治療です。長期間の入院負担を避けたい方にとっても、選択肢のひとつになるでしょう。
骨セメント療法が向いているケース

圧迫骨折は、コルセット装着や痛み止めの内服などをおこなうことで時間の経過とともに痛みが和らいでいくこともあります。ただし、骨折の状態や体調によってはその後に骨セメント療法が向いているケースもあります。ここでは、骨セメント療法が具体的にどのようなケースに適応されるのか解説していきます。
強い痛みが長く続く場合
コルセット装着や痛み止めの内服などによる治療をおこなっても痛みが強く、体を起こす、立ち上がる、歩くといった日常の動作が大きく制限されてしまうケースがあります。このように生活への影響が大きい場合には、骨セメント療法が検討されることがあります。骨セメントを注入して骨の内側から安定させることで、骨折部の細かな動きが抑えられ、体を動かしたときの痛みの緩和が期待できます。
MRIで急性骨折が確認される場合
レントゲンだけでは、今起きた骨折なのか、以前からある骨の変形なのか、判断が難しい場合があります。MRIを実施することで骨の中の炎症の状態を確認できるため、現在の痛みの原因となっている新しい骨折かどうかを確認することができます。骨セメント療法は、今の痛みが急性の圧迫骨折によるものと考えられる場合におこなわれることが多く、古い骨折には適さないことがあります。
多発骨折や骨粗鬆症が背景にある場合
骨粗しょう症が進行すると、複数の椎体に圧迫骨折が起こることがあります。痛みのために動けない状態が続くとさらに筋力が落ち、再骨折のリスクも高まります。そのため、痛みの緩和や体幹の安定を目的として、骨セメント療法が検討されることがあります。
高齢者で併存症がある場合
高齢の方は、心臓・肺・代謝疾患などをもっていることが少なくありません。もし、圧迫骨折の痛みで動けない状態が長く続くと、血栓や肺炎などのリスクが高まります。そのようなリスクを回避するため、早期に痛みを和らげて動きやすい状態に戻すことが重要と判断された場合は骨セメント療法が検討されることがあります。
骨セメント療法の注意点

骨セメント療法には痛みの緩和が期待できますが、実際に治療を受ける際にはいくつか注意するべきポイントがあります。ここでは、安全に治療を受けるために理解しておきたいポイントを紹介していきます。
合併症
骨セメント療法では、まれに注入した骨セメントが骨の外へ漏れ出すことがあります。多くは症状なく経過しますが、神経の近くに漏れた場合には痛みやしびれにつながることがあります。また、ごくまれに感染症や肺塞栓症など合併症を引き起こすことがあります。
こうしたリスクを抑えるために、治療前には画像検査をおこない、手術も慎重におこなわれますが、合併症の可能性がゼロではないことを理解したうえで治療を受けることが大切です。
骨粗しょう症の治療の必要性
骨セメント療法は、現在の圧迫骨折による痛みを和らげる治療であり、骨粗しょう症そのものを改善する治療ではありません。再骨折を防ぐためには、骨粗しょう症の内服治療や生活習慣の見直しを並行して続けることが重要です。
服用中の薬剤
血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を服用している場合、そのまま治療をおこなうと出血のリスクが高まることがあります。治療前には必ず医師へ申告し、自己判断で薬を中止せず、指示に従って調整する必要があります。
圧迫骨折の治療後の経過

圧迫骨折の治療後は、痛みの程度や体の動かしやすさ、骨の状態を確認しながら少しずつ日常生活に戻っていくことになります。治療内容や骨折の程度によって回復のスピードには個人差があるため、経過をみながら無理のない範囲で活動量を調整していきます。
ここでは、治療後の経過について詳しくみていきます。
治療後の痛みの変化
保存療法を実施した場合は、痛みが徐々に軽減していきます。一方、骨セメント療法をおこなった場合は、治療後比較的早い段階で体を動かしたときの痛みが和らぐ方も多くみられます。ただし、すぐに元通りの生活へ戻るのではなく、医師の指示に従いながら、起き上がりや歩行などの動作を段階的に増やしていくことが重要です。
画像フォローアップ
治療後は、圧迫骨折でつぶれてしまった椎体の状態やほかの部位に新たな骨折が起きていないかを確認するため、必要に応じてX線やMRIによる経過観察がおこなわれます。症状が落ち着いていても、医師の指示に沿って定期受診を続けることが大切です。
骨粗しょう症の治療
圧迫骨折の背景には、骨がもろくなる骨粗しょう症が関係していることが少なくありません。骨セメント療法によって痛みが軽くなっても、骨粗しょう症の治療をおこなわなければ別の部位で新たな骨折を起こすリスクが残ります。そのため、内服薬や注射薬による治療、栄養・運動・生活習慣の見直しといった骨粗しょう症対策を継続することが、長期的な再発予防につながります。
まとめ

本記事では、圧迫骨折とその治療方法のひとつである骨セメント療法について解説してきました。
圧迫骨折は高齢者や骨粗しょう症のある方に起こりやすく、痛みが軽いこともあるため受診が遅れがちな傾向があります。しかし、放置すると背骨の変形や慢性的な痛みにつながることもあるため注意が必要です。
痛みが長引いて日常生活への影響が大きい場合には、骨セメント療法が治療の選択肢となります。骨セメント療法には多くのメリットがある一方で、合併症などのリスクも存在します。骨セメント療法を受ける際は、治療の注意点についても理解しておきましょう。
背中や腰の痛みなど気になる症状がある場合は、そのまま我慢せずに専門医へ相談し、適切な診断・治療をうけることが大切です。
「会って話せる医療相談」では、圧迫骨折や骨セメント療法の臨床経験の豊富な専門医が診察をおこなっています。お手元にこれまでの検査結果や紹介状がなくてもご受診いただくことが可能で、必要な場合はMRIなどの画像検査を当日受けていただくことができます。
圧迫骨折の治療が進まずに悩んでいる方や、圧迫骨折のセカンドオピニオンを求めたいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。

【コラム監修者】
沼口 雄治(ぬまぐち ゆうじ) 先生
医療法人社団放栄会 メディカルスキャニング理事長
元聖路加国際病院 放射線科 部長
米国ニューヨーク州ロチェスター大学病院にて長年放射線科教授として活躍し、日米において放射線診断および脳血管内治療の第一線を担ってきた。1990年代に米国で確立された経皮的椎体形成術(骨セメント療法)を在米中に修得。2001年の帰国後は聖路加国際病院にて本治療を日本に導入・実践し、現在も同分野を牽引する存在として精力的に診療と普及に取り組んでいる。