顎変形症の手術について  後悔しないためのポイントも解説

顎変形症の手術について | 後悔しないためのポイントも解説

顎変形症の手術について  後悔しないためのポイントも解説

「顎変形症(がくへんけいしょう)」は、上下の顎の骨の形や位置がずれることにより、嚙み合わせや顔のバランスに影響があらわれる疾患です。

外見の印象だけではなく、食べることや発音、食事の際の顎関節への負担など、日常生活を送るうえで必要とされるさまざまな機能に支障をきたすため、多くの患者さんが完治を求めて医療機関を訪れています。

この記事では、顎変形症の特徴やタイプ、検査と診断の流れ、手術や矯正治療の方法、治療の進め方や費用の基礎知識まで詳しく解説していきます。顎変形症の治療を検討している方やご家族の方は、ぜひ安心して治療への一歩を踏み出すための参考にしてください。また、顎変形症治療は保険が適応されます。

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顎変形症とは

顎変形症は、顎骨のずれで嚙み合わせと顔のバランスに影響があらわれる骨格性の疾患です。外見だけではなく、食べることや発音、顎関節への負担など、日常機能にも影響が及びます。

ここでは、顎変形症の定義とタイプ、症状と日常生活への影響、発症する原因について解説していきます。

顎変形症の定義とおもなタイプ

顎変形症とは、上下の顎の骨の形や位置のずれによって、嚙み合わせや顔のバランスに異常が生じる状態を指します。歯列だけの問題ではなく、骨格性の問題である点が特徴です。

顎変形症のタイプには、下の歯列が上の歯列より前に出ているタイプ(受け口)、上の歯が出て見えるタイプ(出っ歯)、顎の上下の中心がずれている(顎の歪み)タイプなどがあります。いずれの場合も、外見のみならず、食べることや発音などの機能にも影響し得るため、医師による専門的な判断が重要となります。

顎変形症の症状と日常生活への影響

顎変形症では、顎の骨格のずれにより嚙み合わせが合わず、食べ物をうまく嚙み切れない、言葉が明瞭に発音できないなどの機能的な支障が生じます。嚙み合わせの不調和が続くと顎関節に負担がかかり、開口時の痛みや音、口が開けづらいといった顎関節症状をともなうことや、前歯で咬めず奥歯に負担が集中することで、将来的な歯の寿命にも影響する可能性があります。

また、顎変形症の外見は患者さんの心理にも大きな影響を与えます。顔の左右差や下顎の突出・後退により、「人前で表情がこわばってしまう」「写真を撮られたくない」といった心理的負担を感じる方も少なくありません。

さらに、顎の変形によって口唇が閉じにくくなり、無理に閉じようとするために下顎の先端部分に梅干し状のシワがあらわれることがあります。下顎が小さい場合には、気道が狭くなることにより、いびきや睡眠時無呼吸症候群の一因となることもあります。
こうした症状は、見た目や発音の問題だけではなく、食事、会話、睡眠といった日常生活の質全体に影響します。

顎変形症の原因

顎変形症は、原因が不明であることが多い疾患です。ただし、家族に類似した骨格をもつ例がみられることから、遺伝が関与している可能性があるとも考えられています。また、成長期の姿勢や片側咀嚼、舌癖、口呼吸などが影響するとも指摘されています。先天性の異常や、顔や顎の骨折が関与しているケースもあります。

顎変形症の診断と治療計画

顎変形症の診断と治療計画

顎変形症は、正確な診断が治療の出発点となります。顎の骨格のずれや嚙み合わせの状態は外見だけでは判断できないため、精密検査による客観的評価が欠かせません。

ここからは、診断の流れと治療計画の立て方、そして治療に関わる専門科の連携体制について解説していきます。

検査の流れ

まず矯正歯科で嚙み合わせを確認し、単純X線やCTなどで顎の位置や歯列を分析します。そして、口腔外科や形成外科で、これらの画像をもとに顎変形症の手術の適応や方法を検討します。また、口腔外科や形成外科を先に受診された場合でも、矯正歯科と連携して診断を行っていきます。

嚙み合わせの分析

顎変形症の診断では、嚙み合わせの傾きや顎の位置を基準に、前後・左右・上下のずれを分析します。上顎骨の変形、下顎骨の変形、上下顎骨の変形などがみられることが顎変形症の条件です。

矯正歯科と外科の連携体制

顎変形症の治療は、口腔外科または形成外科と矯正歯科が中心となって進めます。
まず、歯並びと嚙み合わせを整える術前矯正をおこない、そのうえで手術により骨の位置を調整し、術後矯正で細かな嚙み合わせを仕上げます。

単純X線やCT、歯型などの検査結果を各専門科が持ち寄り、術前矯正の進め方や、手術で骨をどの位置に動かすかをすり合わせて決めます。必要に応じて、耳鼻咽喉科や言語聴覚士などが加わることもあります。

顎変形症の手術の基本

顎変形症の手術の基本

顎変形症の手術にはどのようなことが期待できるのか、気になっている方も多いと思います。そのような場合、手術の概要をあらかじめ知っておくと治療をイメージしやすくなるでしょう。

ここでは、顎変形症の手術の目的や、手術でできることとできないこと、そして代表的な顎変形症の手術の方法について解説していきます。

顎変形症の手術の目的

顎変形症の手術の目的は、骨の位置を整えて嚙み合わせを改善すること、そして顔のバランスを整えることです。これにより、顎変形症によって損なわれていた機能を改善することができます。

たとえば、ずれた顎の骨を適切な位置へ動かすことで顎周りの機能が改善すれば、食事のしやすさ、発音の明瞭さ、正常な気道の通りといったことに期待できます。また、同時に顔立ちも手術前に比べて左右のバランスが良くなり、口唇が楽に閉じられるようになるでしょう。

顎変形症の手術でできることとできないこと

顎変形症の手術でできることは、顎の骨の位置の調整です。顎の骨の前後・上下・左右のずれを調整し、上下の歯がかみ合う位置に骨を移します。また、骨の移動に合わせて表情の見え方も変わり、顔の左右差や口元の突出感が和らぐことがあります。

一方で、顎変形症の手術は一般的な美容整形とは異なります。皮膚や軟部組織そのものの質を直接変える治療ではないため、しわ・たるみなどの美容的悩み全般を解決するものではありません。また、顎変形症の手術だけで歯の並びの細かい調整は完了しません。手術の前後に歯を矯正して仕上げることが基本となります。

顎変形症の代表的な手術方法

ここからは、顎変形症の代表的な手術方法を紹介していきます。

上顎骨切り術

上顎全体を理想的な位置に移動させる手術です。

ガミースマイル(笑うと歯茎が目立ってしまう笑顔)などの前歯の見え方や、上顔面のバランスを整える手術の方法です。下顎の位置合わせが難しい場合や、上顎側の位置調整が必要なケースで選択されます。上顎だけを手術する場合よりも、上下の顎のバランスを整えるために、上顎と下顎を同時に手術する上下顎同時移動術(両顎手術)が行われることが一般的です。

下顎骨切り術

下顎の後方の骨を内側と外側に分け、前後・左右・上下に動かして位置を整える手術です。

受け口や下顎の引っ込み、下顎の左右差、開咬(奥歯は嚙んでいるのにもかかわらず、前歯が嚙み合わずに開いている状態)などが対象になります。嚙み合わせと下顔面のバランスを整えることを目指します。

歯槽骨切り術

口の前側や奥の歯の周りの骨を一部切り分けて、歯の位置や角度を細かく調整する手術です。

上の前歯が前に出ている、口を閉じても前歯の間にすき間ができる、あるいは奥歯の高さや位置が合っていないといったケースでおこなわれます。顎全体を動かす大きな手術とは異なり、歯並びや見た目を部分的に整えることを目的としています。必要に応じて、ほかの骨切り術と組み合わせて手術することもあります。

オトガイ形成術

顎の先(オトガイ)の骨を水平に切り、前方・後方・上下に移動させて形を整える手術です。

嚙み合わせに問題がない場合に、下顔面の輪郭やバランスを整える目的でおこなわれます。横顔のラインや口元の印象を自然に調整できるのが特徴で、ほかの骨切り術と同時に、または二次的にプレート抜去術と同時に実施されることもあります。

顎変形症の手術の進め方

顎変形症の手術の進め方

顎変形症の手術前後の矯正治療と手術は、ひとつながりの治療として計画されます。これら一連の治療の流れと役割を理解することにより、治療全体の見通しが立てやすくなるでしょう。

ここでは、顎変形症の手術前の準備、入院中に実施すること、また、退院後にどのような回復をたどるのかを整理していきます。

術前矯正治療で準備すること

顎変形症の手術前には矯正治療をおこないます。

これは、手術後に安定した嚙み合わせを実現するための下準備です。歯の並びを整え、手術で骨の位置を動かした後に嚙み合わせが合うように土台をつくります。また、矯正治療の期間は個人差があり、抜歯やアンカースクリュー(小さなねじ)の併用が検討されることもあります。通常1-2,3年間行うことが多いです。

入院から退院まで(麻酔・固定・食事・腫れと痛み)

医療機関にもよりますが、顎変形症の手術時の入院期間は、おおむね1〜2週間が目安となります。

顎変形症の手術は全身麻酔でおこなわれ、骨はプレートとねじで固定し、嚙み合わせの誘導には顎間ゴムを用いて調整します。術後は腫れや痛みがあらわれますが、時間の経過とともに落ち着いていきます。最初は流動食〜やわらかい食事から始め、徐々に普通の食事へと移行します。上下を強く固定する場合は、よりやわらかい食事から段階的に進めることが一般的です。

手術後の回復の目安・術後矯正治療

退院後は、上下の歯にゴムをかけて嚙み合わせを調整したり、手術後に再び矯正治療をして歯並びの細かい調整を最終的におこなっていきます。嚙んだり話したりする機能や、見た目のバランスを安定させるための仕上げ段階で、通院しながらかみ合わせを整え、顎の機能を徐々に回復させていきます。

サージェリーファーストという選択肢の注意点

「サージェリーファースト」とは、顎変形症の手術前の本格的な矯正治療を省略し、先に手術をおこなったうえで術後に矯正治療で仕上げていくという考え方です。トータルの治療期間の短縮や、早期の外見の変化が期待できる一方、手術後の嚙み合わせの安定性への配慮が必要です。人によって向き不向きがあるため、医師と相談して決めるようにしましょう。サージェリーファーストで術前矯正治療をおこなわない場合は、保険適用外になりますので注意が必要です。

顎変形症の手術のリスクと合併症

顎変形症の手術のリスクと合併症

顎変形症の手術のほとんどは安全におこなわれていますが、まれに合併症や後遺症が起こることがあります。

ここでは、代表的なリスクや注意すべき症状を紹介していきます。

神経症状(しびれ・感覚低下)

下顎の手術後、下唇や顎先にしびれや感覚の鈍さが残ることがあります。上顎の場合は、上唇や口蓋に感覚の鈍さが残ることがあります。多くは一時的で、おおよそ数か月~1年程度で改善がみられますが、まれに長く残る場合もあります。

出血・感染・腫れと痛み

顎変形症の手術後は、出血・感染・腫れ・痛み・発熱をともなうことがあります。出血や発熱は通常一時的なものであり、適切な管理により改善します。感染予防のために抗菌薬を使用しますが、まれに創部感染を生じることがあります。痛みは数日〜1週間ほどで日常生活には支障がないレベルにまで落ち着くことが多いですが、腫れが完全に引くまでには1〜2週間以上かかることもあります。

嚙み合わせのずれ・後戻りと追加治療の可能性

手術後は、最終的なかみ合わせを整え、治療結果を安定させるために術後矯正治療を行います。骨や筋肉が新しい位置に適応する過程でわずかな後戻りが生じることがありますが、術後矯正治療を適切に行うことで、そのリスクを軽減することができます。良好な治療結果を維持するためには、定期的な通院と継続的な管理が重要です。

顎関節への影響と対応

手術後に、一時的な顎関節の違和感や開けにくさを感じることがあります。多くは時間とともに改善しますが、関節に強い負担がかからないよう、術後のリハビリや口の開け方の指導を受けることが大切です。

費用と保険の基礎知識

費用と保険の基礎知識

顎変形症の手術は、条件を満たせば健康保険の適用対象となり、自己負担を抑えて治療を受けることができます。

ここでは、保険適用の仕組みと費用負担の考え方を紹介していきます。

保険適用の条件と施設基準

顎変形症では、嚙む・話すなどの機能障害をともない、顎の骨に対する手術が必要と診断された場合に健康保険が適用されます。

治療を保険で受けるには、厚生労働省が定める「顎口腔機能診断施設」として認定を受けた医療機関で、外科手術と矯正治療を一連の流れでおこなうことが条件とされています。一方、外科手術をともなわない矯正治療や美容目的の治療は保険の対象外となります。

自己負担と高額療養費制度

費用が高額になっても、高額療養費制度を利用すれば上限を超えた分が払い戻されます。所得に応じて上限額が設定されており、入院が必要な場合でも医療費控除の対象となります。

自由診療との線引き

手術や入院費用は保険でまかなえますが、美容目的の矯正治療や審美的補正などは保険の対象外です。治療前に医師と費用範囲を明確に確認し、見積書をもとに支払い計画を立てることが重要です。

後悔しないためのチェックポイント

後悔しないためのチェックポイント

顎変形症の治療は、矯正と手術を含む長期的な計画が求められます。安心して臨むためには、仕上がりの目標や手術の時期、回復の見通しを事前に理解し、信頼できる医療チームを選ぶことが重要です。

最後に、顎変形症の手術で後悔しないチェックポイントを紹介していきます。

仕上がりのイメージと嚙み合わせ目標

手術後の顔のバランスや嚙み合わせは、CTや模型・シミュレーションなどをもとに、医師から事前に説明を受けます。仕上がりの外見だけではなく、嚙み合わせの安定と機能回復が最終目標であることを理解しておきましょう。

手術のスケジュール設計と休業・学業の調整

術前矯正治療から手術を経て、完全に回復するまでには数か月〜数年(場合によっては、2、3年)の期間が必要です。手術時は1〜2週間の入院と1週間程度の安静期間を見込み、仕事・学校・イベントの時期を前もって調整しておくと安心です。

手術の合併症と回復の見通し

腫れ・しびれ・痛みなどは、一時的な症状として多くの患者さんにみられます。多くは数週間〜数か月で軽快しますが、まれに長引くこともあります。事前に起こり得るリスクと回復の目安を説明してもらい、疑問を残さないことが大切です。

手術の医療機関と担当チームの選び方

顎変形症の治療は、口腔外科または形成外科・矯正歯科など、複数の専門の診療科による連携が欠かせません。顎口腔機能診断施設として認定された医療機関のなかから、治療実績・医師のプロフィール・診療体制などを確認し、自分が納得できる環境を選ぶとよいでしょう。

まとめ

顎変形症は、嚙む・話す・呼吸するといった機能に関わる疾患です。

顎変形症は、見た目の問題だけではなく、嚙む・話す・呼吸するといった機能に関わる疾患です。診断から矯正治療・手術・回復までの流れを正しく理解し、治療の目的やリスクを把握しておくことが、納得のいく治療結果につながります。

また、保険が適用される条件や治療期間は医療機関によって異なるため、顎口腔機能診断施設として認定された医療機関で、担当医や相談窓口にしっかり確認することが大切です。

「会って話せる医療相談」では、顎変形症の臨床・手術経験の豊富な医師がみなさまのお悩みやご希望に耳を傾け、納得いく治療方法を選択できるようアドバイスする場を提供しております。「顎変形症を診断されてどうすればよいか分からない」「現在の治療方針が正しいのか心配」という方は、お気軽にお問い合わせください。

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東京女子医科大学医学部 歯科口腔外科学講座 口腔顎顔面外科学分野教授の古賀 陽子(こが ようこ)先生の写真

【コラム監修者】

古賀 陽子(こが ようこ) 先生

東京女子医科大学医学部 歯科口腔外科学講座 口腔顎顔面外科学分野教授

米国留学で培った科学的知見を臨床に生かし、東京大学、東京医科大学で多数の症例を経験。複雑な顎・顔面骨の変形や骨欠損に対し、再生医療研究を基盤とした外科的再建を行ってきた。患者一人ひとりのお悩みやご希望に丁寧に向き合い、十分な説明と対話を重ねながら、病態に応じたオーダーメイド治療を提供している。また、医療経済および未来医療の在り方について多角的な視点から数々の基礎~臨床研究の取り組みを行っており、2025年に一橋大学大学院経営管理研究科を卒業しMBA(経営修士号)を取得。

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