
パーキンソン病は、高齢者を中心に発症する神経疾患のひとつです。手足の震えや歩行のしづらさといった症状がよく知られていますが、実際にはその現れ方や進行のスピードは人によって大きく異なります。初期の段階では「加齢によるもの」と見過ごされることも少なくありません。そのため、症状を正しく理解しておくことは、早期発見や治療につなげるために非常に重要です。
今回はパーキンソン病の症状をはじめ、原因や進行速度、治療法についても解説します。パーキンソン病の理解を深めたい方は、ぜひ参考になさってください。
目次
パーキンソン病の4大症状

そもそもパーキンソン病とは、脳の特定の領域で異常が起こることによって身体の動きに障害が生じる病気です。発症は50歳以降に多く、高齢になるほど発症リスクが高いと言われています。一方で40歳以下の方が発症するケースもあり、その場合は「若年性パーキンソン病」と呼ばれます。
パーキンソン病の症状は大きく「運動症状」と「非運動症状」に分けられます。特に運動症状を構成する4つの症状は、パーキンソン病の4大症状として知られていますので、以下よりこの4大症状について、それぞれの症状を解説していきます。
振戦
振戦(しんせん)は、安静にしていても手や足が小刻みに震える症状です。パーキンソン病の初期から現れやすく、多くの場合で発症に気付くきっかけとなります。
パーキンソン病の振戦の特徴は、座っているときや何もしていないときに現れて、身体を動かしているときには震えが収まる「安静時振戦」であることです。振戦の現れ方にも特徴があり、初期は左右どちらかのふるえから始まるものの、病気が進行するにつれて両側にふるえが広がるようになります。
また、パーキンソン病の振戦には「丸薬丸め運動」や「タッピング様振戦」という動きが見られます。
| 丸薬丸め運動 | 指先で物を丸めるように親指と人差し指をこすり合わせる |
| タッピング様振戦 | 床を小刻みに打つようにかかとを動かす |
ただしこれらは、パーキンソン病の患者様全員に現れるわけではありません。なかには振戦がまったく見られなかったり、病気の進行に伴って手足のふるえが判然としなくなったりするケースもあります。
筋固縮
筋固縮(きんこしゅく)は、筋肉がこわばって身体を動かすことが困難になる症状です。筋強剛(きんきょうごう)と呼ばれることもあります。筋固縮の具体的な症状は、関節を曲げたり伸ばしたりするときに抵抗があり、筋肉の動きが固く感じられることです。
たとえば医師が患者様の腕の曲げ伸ばしをおこなうと、ある程度動いたら止まり、また動き始めるという症状が見られます。これは「歯車様固縮」と呼ばれ、滑らかな動きの間に抵抗が挟まる状態を指します。
一方で、腕の曲げ伸ばしは滑らかであるものの、持続的な抵抗が感じられる「鉛管様固縮」という状態もあります。筋固縮は患者様自身では気づきにくい症状のため、気になる場合は医師や家族の方に手足を動かしてもらい、抵抗を感じるかどうかを確認するとよいでしょう。
寡動・無動
寡動(かどう)は、動作の開始が遅くなり、身体の動きも小さくなる症状です。なお、さらに症状が進行して身体の動きがより小さくなった状態は無動(むどう)と呼ばれます。
寡動・無動は特定の動作に限らず、歩行・起き上がり・食事・着脱衣など、日常生活のあらゆる場面で症状が現れることが特徴です。たとえば歩幅が小さくなって移動に時間がかかったり、食事がうまく取れなくなったりします。
また、パーキンソン病の患者様特有の状態として、寡動・無動を原因として起こる「仮面様顔貌」や「小字症」があります。仮面様顔貌は顔の筋肉が動かしにくくなり、無表情のように見える症状で、小字症は指先をスムーズに動かせなくなることで書く文字が極端に小さくなる症状を指します。
姿勢反射障害
姿勢反射障害は、姿勢のバランスを保とうとする反射機能が低下する症状です。通常であれば、身体が傾いて倒れそうになった時に無意識に姿勢を立て直しますが、この働きが弱くなることで転倒しやすくなります。
その結果、日常生活のさまざまな動作が困難になります。たとえば、立ち上がるときや身体の向きを変えるとき、階段の上り下りをするときなど、ちょっとした動作でも身体のバランスを崩しやすくなるのが特徴です。
さらにパーキンソン病が進行すると、立ったときに顕著な前傾姿勢を取るようになり、頭を前方に突き出す「首下がり(頸部屈曲)」と呼ばれる姿勢異常も見られます。
なお、姿勢反射障害はパーキンソン病の初期には現れにくく、病気が進行した後期に見られることが多い症状です。筋固縮や寡動・無動と合わせて身体のスムーズな動きが難しくなると、転倒事故につながるリスクがあるため注意が必要です。
パーキンソン病のその他の症状
パーキンソン病の運動症状以外の症状は、非運動症状と呼ばれます。
非運動症状は以下のように多様な症状があり、なかには運動症状より先に症状が現れるケースもあります。
・嗅覚障害
嗅覚のレベルが低下し、食べ物などのにおいを感じ取りにくくなります。嗅覚障害はパーキンソン病の初期に現れる代表的な症状です。
・便秘
自律神経の異常によって腸のぜん動運動が遅くなり、便秘を起こしやすくなります。運動機能の低下も便秘につながる要因であり、便秘はパーキンソン病の患者様に多く見られる症状です。
・排尿障害
自律神経の異常は排尿障害も引き起こします。具体的な症状は、排尿の開始や持続が難しくなったり、急な尿意を感じたりなどさまざまです。
・起立性低血圧
立ち上がったときに急激に血圧が下がり、めまいやふらつき、失神を引き起こすことがあります。
・睡眠障害
夜中に眠れなくなる「不眠症」や、反対に日中に眠気を感じる「傾眠」、本来は脱力状態になるレム睡眠中に身体が動く「レム睡眠行動障害」などの症状があります。
・精神障害
気分の落ち込みが続く「抑うつ」や、その場にはないものを見聞きする「幻覚・幻聴」、事実ではないことを信じ込む「パラノイア」などの精神障害が見られることがあります。
パーキンソン病の原因

パーキンソン病の主な原因は、中脳の黒質にあるドパミン神経細胞の数が急激に減少し、神経伝達物質のひとつであるドパミンの産生が減ることです。ドパミンは身体の運動調節や快感・意欲を感じる機能などに関わっており、減少すると各種の運動症状や抑うつなどの非運動症状が現れるようになります。
このようにパーキンソン病の発症にはドパミン神経細胞の減少が関係しているものの、なぜドパミン神経細胞が急激に減少するのかは分かっていません。要因のひとつには加齢がありますが、パーキンソン病の患者様はドパミン神経細胞の減少スピードがより速いと言われています。
また、ドパミン神経細胞の減少には、黒質に蓄積するαシヌクレインというタンパク質の関与も考えられます。αシヌクレインは、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者様の脳で見られる「レビー小体」というタンパク質の塊を形成する物質です。レビー小体は神経細胞を破壊して機能不全を引き起こすため、ドパミン神経細胞の減少にもかかわっているとされているのです。
また、パーキンソン病は多くの場合で遺伝性を示さないものの、発症ケースの5~10%は遺伝子変異がかかわる家族性パーキンソン病です。ただし、家族性パーキンソン病であっても遺伝要因のみで発症する可能性は低く、加齢・ストレスなどの環境要因が重なることで発症につながると考えられています。
パーキンソン病の進行速度

パーキンソン病の進行度は、「ホーン-ヤール重症度分類」「生活機能障害度」という2つの指標で示されます。
| 症状 | ホーン-ヤール重症度分類 | 生活機能障害度 |
| 片方の手足のみに振戦や筋固縮が現れる | 1度 | 1度 (日常生活や通院にほとんど介助を要さない) |
| 両方の手足に振戦や筋固縮が現れる | 2度 | |
| 姿勢反射障害が現れる | 3度 | 2度 (日常生活や通院に部分的な介助を要する) |
| 日常生活に部分的な介助を要する | 4度 | |
| 車椅子での生活や寝たきりなど、全面的な介助を要する | 5度 | 3度 (日常生活の全面的な介助が必要になり、介助なしに歩行・起立ができない) |
<参考記事>
難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」
厚生労働省「6 パーキンソン病」
上記のように、パーキンソン病はゆっくりと進行するものの、進行速度には個人差がある病気です。一般的には振戦が主症状の場合は進行が遅く、寡動・無動が主症状の場合は進行が速くなると言われています。
パーキンソン病は早期に治療することで病気の進行を緩やかにできますので、振戦・筋固縮や嗅覚障害といった初期症状に気づいたら、できるだけ早く医師に相談し、治療を開始することが大切です。
パーキンソン病の治療法

パーキンソン病を根治できる治療法は2025年現在発見されていないものの、症状を抑えたり、病気の進行を緩やかにしたりする治療法は存在します。
ここでは、パーキンソン病の主な治療法を3つお伝えし、それぞれの治療法の内容や期待できる効果についても解説します。
薬物療法
薬物療法とは、薬を用いて病期の進行抑制や症状緩和を目指す治療法です。パーキンソン病の治療は薬物療法が中心となっており、補助的に他の治療法も組み合わせるケースがあります。
パーキンソン病の薬物療法では、脳内で不足しているドパミンを補ったり、ドパミンの働きをサポートしたりする薬を使用します。主な薬は以下の8つです。
| L-ドパ | 脳内でドパミンに変化し、不足するドパミンを補充します。 |
| ドパミン受容体作動薬 | ドパミンの受容体に結合して、ドパミンが出たときと同じように作用します。 |
| MAO-B阻害薬 | ドパミンの効果を長くする作用があります。 |
| COMT阻害薬 | L-ドパと併用して、L-ドパの成分が脳に入る前に分解されるのを抑制します。 |
| アデノシン受容体拮抗薬 | ドパミンと反対の働きをするアデノシンの働きを抑制し、ドパミンの作用をサポートします。 |
| 抗コリン薬 | ドパミンと拮抗するアセチルコリンの働きを抑制し、ドパミンとのバランスを保ちます。 |
| ドパミン放出促進薬 | ドパミン神経細胞を刺激し、ドパミンの放出を促します。 |
| L-ドパ賦活薬 | ドパミンの生成サポートと効果の延長に働きます。 |
| ノルアドレナリン補充薬 | ノルアドレナリンを補充し、パーキンソン病の症状を現れにくくします。 |
なお、薬物療法で使用する薬剤には副作用があり、服薬初期に現れやすい副作用は吐き気・便秘・食欲不振といった消化器症状や眠気、立ちくらみです。
また長期間服薬を続けると、薬の成分によって足のむくみや幻覚、運動合併症などの症状が現れることもあります。
デバイス補助療法
薬物療法をおこなっても進行抑制や症状緩和の効果が出にくい場合は、外科手術をおこなって症状のコントロールを図るケースがあります。
パーキンソン病の治療で選択される代表的な手術方法は、以下の3つです。
・脳深部刺激療法(DBS)
脳の特定の部位(視床下核・淡蒼球・視床など)に電極を挿入し、持続的な電気刺激を送ることで神経細胞の活動をコントロールする治療法です。L-ドパなどの治療薬を長期服用したときに現れる運動合併症を抑え、薬物療法の効果を高めることが期待できます。
・レボドパカルビドパ経腸療法(LCIG治療)
胃ろうを造設して小腸まで届くチューブを通し、ゲル状にしたL-ドパ製剤を小腸に持続投与する治療法です。L-ドパの安定的な吸収が可能になり、薬物療法の効果を高められます。
・MRガイド下収束超音波療法
ふるえなどの症状の原因となっている脳の部位を標的として、MRIで超音波を集束照射し、対象部位を熱凝固させる治療法です。頭を切開する必要がないため患者様への負担が抑えられ、症状緩和が期待できます。
なお、手術を受ける際には医療機関が定める手術適応の条件を満たす必要があり、治療法によっては合併症のリスクもあるため、医師とよく相談した上で決めることが大切です。
リハビリテーション
パーキンソン病は進行するにつれて身体が思うように動きにくくなり、そのまま放置すると身体機能が衰えてさらなる症状悪化を招きます。症状の進行を緩やかにするにはリハビリテーションで身体を動かすことが効果的です。
リハビリテーションの方法には、以下のような運動が挙げられます。
・体力の維持向上ができる有酸素運動
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動をおこなうと、心肺機能が鍛えられて体力の維持・向上を図れます。歩行が不安定な方は、ストックを両手に持って歩くノルディックウォークもおすすめです。
・筋肉や関節の柔軟性を高めるストレッチ
筋固縮や寡動・無動の症状が現れると筋肉や関節の柔軟性が失われ、日常動作も困難になります。全身の筋肉と関節を動かすストレッチをおこなって、柔軟性を維持できるようにしましょう。
・筋力維持ができる筋肉トレーニング
筋肉トレーニングをおこなうと、パーキンソン病で低下しやすい筋力を維持するのに効果的です。実施する際は、歩行にかかわる股関節・膝関節周辺の筋肉や前傾姿勢の予防につながる背筋・臀筋を中心に鍛えるとよいでしょう。
・歩行や起居などの日常動作の練習
パーキンソン病の進行に伴って現れる小刻み歩行・すくみ足・前傾姿勢などの状態は、身体が慣れると元に戻すことが困難です。歩行を大きな動作でおこなったり、起居(立つ・座る)がスムーズにできるよう動きを練習したりすると、日常生活への影響を抑えることができます。
なお、身体が不自由な状態でリハビリテーションをおこなうと怪我や心身不調の原因となる可能性もあります。リハビリテーションは主治医の先生とよく相談してからおこなってください。
まとめ

パーキンソン病の症状には振戦・筋固縮・寡動と無動・姿勢反射障害といった運動症状と、嗅覚障害や精神障害などの非運動症状があります。その原因は、中脳の黒質にあるドパミン神経細胞が減少し、神経伝達物質のひとつであるドパミンの放出が低下することです。進行速度には個人差があるものの、薬物療法などの治療を早期に開始すれば進行を緩やかに抑えることが可能です。
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