皮膚の表面に赤色や紫色のあざやふくらみ、斑点のあらわれる「血管腫」は、乳児に多い疾患として知られていますが、成人になってからも発症するケースがみられます。
かつてはまとめて「血管腫」と呼ばれてきたこれらの病変は、近年の医学研究の進歩により、血管腫(良性腫瘍)と血管奇形(構造的異常)に明確に分類されるようになってきました。正しい分類に基づいた診断と、それぞれの病態に応じた治療法の選択が、症状の改善に直結します。
特に「血管奇形」の治療においては、血管内治療(カテーテルや針を用いて体の外から最小限の切開で病変に直接アプローチする方法)が中心的な役割を担っており、外科手術と比較して患者さんへの負担が大幅に少ないことが特徴です。
本記事では、血管奇形の種類と症状・診断・治療法について詳しく解説していきます。
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血管奇形とは
血管腫と血管奇形の違い
以前は、皮膚や皮下組織にみられる赤色や青紫色のあざ、腫れなどをまとめて「血管腫」と呼んでいました。しかし、医学の進歩により、現在では「血管腫」と「血管奇形」は異なる疾患として区別されています。
血管腫は、血管を構成する細胞(血管内皮細胞)が異常に増殖することで発生する良性腫瘍です。代表的なものに乳児血管腫(いちご状血管腫)があり、生後間もなく現れて急速に大きくなるものの、多くは成長とともに自然に縮小・消退していきます。
一方、血管奇形は、胎児期の血管やリンパ管の形成過程で生じる先天的な血管の構造異常です。出生時から存在しているものの、小さいうちは目立たず、成長や思春期、妊娠、外傷などをきっかけに症状が現れたり、徐々に悪化したりすることがあります。また、血管奇形は自然に治ることはほとんどなく、病変の種類や症状に応じた適切な治療が必要となります。
近年では、PIK3CAやTEK(TIE2)、RASA1などの遺伝子変異が一部の血管奇形に関与していることが明らかになってきました。ただし、多くは胎児期に偶発的に生じる体細胞変異によるもので、遺伝するケースは多くありません。
血管奇形が発症、増大する因子
- 成長期(小児期・思春期)
- 妊娠や出産などのホルモン環境の変化
- 外傷や手術などによる刺激
- 感染や炎症
- 血栓形成(特に静脈奇形)
これらの要因によって症状が進行することがあるため、「以前からあざやしこりはあったが最近大きくなってきた」「痛みや腫れが出てきた」といった場合には、血管奇形が関係している可能性があります。
血管奇形は、血流の速さや異常が生じている血管の種類によって、「毛細血管奇形」「静脈奇形」「リンパ管奇形」「動静脈奇形」などに分類されます。それぞれで症状や治療方法が異なるため、まずは正確な診断を受けることが重要です。
血管奇形の種類と症状・特徴
血管奇形にはいくつかのタイプがあり、それぞれ症状や経過が異なります。
ここでは、4つのタイプの血管奇形について、おもな症状や特徴を紹介していきます。
①毛細血管奇形
毛細血管奇形は、生まれつき毛細血管の構造に異常があることで起こる血管奇形です。皮膚表面に赤色から赤紫色の平坦なあざがみられることが特徴で、以前は「単純性血管腫」とかポートワイン母斑などと呼ばれていました。
【おもな症状・特徴】
- 出生時から赤色〜赤紫色の平坦なあざがみられる
- 自然に消えることはほとんどない
- 成長とともに色が濃くなったり、皮膚が厚く盛り上がったりすることがある
症状が軽い場合は経過観察となることもありますが、見た目が気になる場合や皮膚の肥厚が進行している場合には、レーザー治療などが検討されます。
②静脈奇形
静脈奇形は、静脈の形成異常によって生じる血管奇形です。皮膚や皮下、筋肉などさまざまな部位に発生し、血管奇形の中でも比較的多くみられます。
【おもな症状・特徴】
- 青紫色で柔らかい腫れやふくらみがみられる
- 押すとへこみ、手を離すと元に戻る
- 長時間立っていると腫れや痛みが強くなることがある
静脈奇形は自然に治ることはなく、症状や病変の大きさによって治療方法が決定されます。近年では、病変へ直接薬剤を注入する硬化療法(血管内治療)が第一選択となるケースも多く、必要に応じて外科手術を組み合わせることがあります。
③動静脈奇形
動脈→毛細血管→静脈とつながるべき血管が、動脈から静脈に直接つながることにより腫瘤が生じる奇形です。原因は解明されていませんが、先天性であると考えられています。
【おもな症状・特徴】
- 赤みを帯びた腫瘤で、触れると拍動を感じる
- 熱感・皮膚潰瘍・疼痛があらわれる
- 増大すると出血や、まれに心臓への負荷が生じる
血流が増えて症状が進行すると、心臓に影響が及ぶことがあるため専門的治療が必要になります。なお、治療難易度が高く、塞栓術(血管内治療)と外科的手術の組み合わせが標準的な治療法とされており、放射線科・外科など複数の専門科が連携した集学的治療が必要です。
④リンパ管奇形
リンパ管に袋状のふくらみができ、内部にリンパ液が溜まって腫瘤が生じる疾患です。胎児期のリンパ管形成異常が原因で、多くは小児期に発症します。
【おもな症状・特徴】
- 首やわきの下、縦隔などに多くみられる柔らかい腫瘤
- 感染や出血を契機に急激に腫れることがある
- 痛みや発熱を伴うことがある
- 発症部位によっては呼吸・嚥下に影響が及ぶ
呼吸や嚥下を妨げ足り、痛み、発熱、出血などを繰り返すなど生活に支障がある場合は治療が検討されます。
血管奇形の診断
血管奇形は、見た目だけでは種類を判断することが難しく、病変の広がりや血流の状態によって適した治療方法が異なります。そのため、正確な診断を行うためには、診察に加えて画像検査を組み合わせることが重要です。
ここでは、血管奇形の診断で行われる主な検査についてご紹介します。
超音波(エコー)検査
超音波(エコー)検査は、病変の大きさや深さ、血流の状態を確認するための基本的な検査です。痛みや放射線被ばくがなく、身体への負担が少ないため、初期診断として広く行われています。また、血流の速さを評価することで、静脈奇形や動静脈奇形などを鑑別する際にも役立ちます。
MRI検査
MRI検査では、病変がどこまで広がっているのか、周囲の筋肉や神経、骨などとの位置関係を詳しく確認できます。特に、静脈奇形やリンパ管奇形、動静脈奇形など、皮膚の深い部分まで病変が及ぶケースでは欠かせない検査です。病変の範囲を正確に把握することで、血管内治療(IVR)や外科手術などの適切な治療計画を立てることができます。
血管造影検査(DSA)
血管造影検査(DSA)は、カテーテルを血管内に挿入し、造影剤を注入しながらX線で血管の状態を詳しく観察する検査です。特に、血流が速い動静脈奇形では、異常な血管のつながりや血流の方向をリアルタイムで確認できるため、診断だけでなく治療方針の決定にも重要な役割を果たします。また、血管造影検査はそのまま血管内治療(IVR)へ移行できる場合もあり、治療と診断を一体的に行えることも特徴です。
血管奇形は種類によって症状や治療方法が大きく異なるため、これらの検査を組み合わせて病変の性質や広がりを正確に評価することが重要です。専門医による適切な診断を受けることで、一人ひとりの病態に合わせた最適な治療方法を選択することができます。
血管奇形の治療方法と適応
ここからは、血管奇形に用いられている治療方法と適応について解説していきます。
血管内治療(IVR)
血管奇形の治療において重要な役割を担うのが、血管内治療(IVR)です。カテーテルや細い針を用いて、X線・超音波・CTなどの画像を確認しながら、病変に直接アプローチする治療方法です。
皮膚を大きく切開せずに治療できるため、外科手術と比較して身体への負担を抑えられる場合があります。特に、静脈奇形やリンパ管奇形、動静脈奇形では、病変の種類に応じて硬化療法や塞栓術が行われます。日本の血管腫・血管奇形診療ガイドラインでも、血管奇形に対する硬化療法・塞栓術は重要な治療選択肢として扱われています。
硬化療法
硬化療法は、主に静脈奇形やリンパ管奇形などの低流速の血管奇形に対して行われる治療です。病変に細い針を刺し、硬化剤を注入することで、異常な血管やリンパ管の内腔を閉塞・縮小させます。
静脈奇形では、痛みや腫れの軽減を目的として行われることが多く、病変の大きさや範囲によっては複数回の治療が必要になることがあります。リンパ管奇形では、特に嚢胞状の病変に対して硬化療法が検討されます。
塞栓術
塞栓術は、主に動静脈奇形など血流の速い病変に対して行われる治療です。カテーテルを血管内に進め、コイルや液体塞栓物質などを用いて異常な血流を遮断します。
動静脈奇形は血流が速く、進行すると痛み、熱感、出血、皮膚潰瘍などを引き起こすことがあります。そのため、病変の血流をコントロールすることが治療上重要です。必要に応じて、塞栓術を外科手術の前処置として行い、手術中の出血を減らす目的で実施されることもあります。動静脈奇形では、塞栓術単独または外科手術との併用が治療選択肢となります。
レーザー治療
レーザー治療は、主に皮膚表面に近い赤色の病変や色調の改善を目的として行われます。代表的には、毛細血管奇形に対してパルス色素レーザーが用いられることがあります。
レーザー治療は、1回で病変が完全に消えるものではなく、複数回の治療を重ねながら少しずつ色調の改善を目指します。一方で、皮膚の深い部分に広がる静脈奇形やリンパ管奇形、動静脈奇形では、レーザーだけで十分な効果が得られない場合があります。
外科的手術
外科的手術は、病変を切除することで症状の改善を目指す治療です。病変が限局していて切除しやすい場合や、痛み・出血・機能障害が強い場合、美容面で大きな支障がある場合などに検討されます。
ただし、血管奇形は周囲の筋肉や神経、臓器に広がっていることもあり、無理に切除すると出血や機能障害のリスクが高くなる場合があります。そのため、手術単独ではなく、事前に塞栓術や硬化療法を行ったうえで切除するなど、血管内治療と組み合わせて治療することもあります。
薬物療法
血管奇形に対する薬物療法は、乳児血管腫のようにプロプラノロールが標準治療として使われるものとは異なります。血管奇形そのものを内服薬だけで治すことは一般的ではありません。
ただし、近年では一部の難治性の血管奇形や複合型血管奇形に対して、原因となる遺伝子変異や細胞内シグナルを標的とした薬物療法が検討されることがあります。たとえば、静脈奇形やリンパ管奇形ではシロリムスという分子標的薬が治療選択肢となる場合があります。
血管奇形についてよくある質問
最後に、血管奇形についてよくある質問にお答えしていきます。
血管奇形は自然に治ることがありますか?
血管奇形は、生まれつき血管やリンパ管の構造に異常がある疾患であり、自然に消失することはほとんどありません。乳児血管腫のように成長とともに縮小する病気とは異なるため、症状や病変の状態に応じて経過観察や治療を検討する必要があります。
血管奇形は必ず治療が必要ですか?
すべての血管奇形に治療が必要というわけではありません。症状がなく、病変が小さく日常生活に支障がない場合は、定期的な経過観察を行うこともあります。一方で、痛みや腫れ、出血、機能障害、美容面での悩みなどがある場合には、血管内治療(IVR)や外科手術、レーザーなどの治療が検討されます。
血管奇形は悪性腫瘍(がん)になることはありますか?
血管奇形は、生まれつきの血管構造の異常であり、基本的に悪性腫瘍(がん)になることはありません。ただし、病変が徐々に大きくなったり、痛みや出血などの症状が現れたりすることがあるため、気になる変化があれば早めに専門医へ相談することが大切です。
血管内治療(IVR)はどのような血管奇形に適していますか?
血管内治療(IVR)は、静脈奇形やリンパ管奇形、動静脈奇形などに対して広く行われています。病変の種類によって、硬化療法や塞栓術などの治療方法が選択されます。病変が深い場所にある場合や、外科手術だけでは治療が難しい場合にも有効な治療法となることがあります。
血管奇形は再発することがありますか?
血管奇形は病変の範囲や種類によっては、治療後も再び症状が現れたり、病変が大きくなったりすることがあります。そのため、一度治療を受けた後も定期的な経過観察が重要です。必要に応じて追加の血管内治療や外科手術を行うことで、症状のコントロールを目指します。
まとめ
今回の記事では、血管奇形の種類や症状、治療方法について詳しく解説してきました。
血管奇形の治療において、血管内治療(IVR)は、体への負担を最小限に抑えながら深部病変にアプローチできる現代医学の中心的な治療法です。外科手術と組み合わせることで、より安全で確実な治療効果が期待できます。
「病変が大きくなってきた」「痛みや出血がある」「見た目が気になって精神的につらい」といった場合は、経過観察のみで対処するのではなく、専門的な診断と治療を受けることが大切です。
「会って話せる医療相談」では、血管奇形の診断・血管内治療(IVR)に豊富な経験と実績をもつ専門医が診察を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。
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【コラム監修者】
新見 康成(にいみ やすなり) 先生
東京Dタワーホスピタル 脳神経外科・血管内治療センター責任者
聖路加国際病院 前神経血管内治療科部長 / 前脳神経センター長
脳血管奇形をはじめ、顔面・頸部の血管奇形や血管腫に対する血管内治療を専門とする名医。脊髄血管奇形や小児の血管奇形など、高度な判断と技術を要する治療にも豊富な経験を有する。国内外で研鑽を積み、インドにおける血管内治療トレーニングコースでは講師として後進の育成にも携わっている。